2019 年 75 巻 7 号 p. III_255-III_263
内湾生態系保全において,人為的な環境改変が内湾生態系に与える影響評価は重要な課題である.本研究では,志津川湾を対象として河口からの距離が異なる2地点の局所群集間で食物網構造の差異を脂肪酸組成分析に基づき評価できるかを検討した.その結果,2地点間の消費者生物のマーカー脂肪酸組成に有意な違いが認められた.河口近くの食物網は珪藻起源有機物へ,沖寄りでは緑藻起源有機物へ大きく依存した.これらより,特に消費者生物の脂肪酸組成分析から局所的な群集・食物網の構造の特性を評価できることが支持された.さらに,捕食性魚類がEPAやDHA等の特定のマーカー脂肪酸を体内に濃縮する傾向が認められた.捕食性魚類の脂肪酸組成に基づく食物網構造の推定を可能にするには,今後脂肪酸濃縮のパターンを定量的に理解することが必要である.