2020 年 76 巻 6 号 p. II_319-II_331
本研究では,全国の下水処理場を対象として,ICTを用いた劣化診断技術の導入が,対象とする保有機器やシステム運用の違いを通して維持管理費用の削減に及ぼす影響を明らかにするための分析を行った.分析の結果,まず個々の処理場ごとへの導入を想定した場合,経費回収年数が10年未満となる費用削減効果が認められたものは全国2,144下水処理場の約6%にとどまり,特に中小処理場の多い14の都道府県では同様の費用削減効果を得られる処理場がないことがわかった.これに対して,都道府県主導での広域化・共同化によるICT劣化診断技術の一括導入と,これにシステム運用の形態が異なるオンプレミス,クラウドを組み合わせたケースを想定した.これを適用した場合,全国的にはICT導入可能な処理場の割合は改善する一方,地域に応じて異なる費用削減効果への影響がもたらされることを明らかにした.