2020 年 76 巻 7 号 p. III_423-III_429
ウイルスの遊離塩素耐性は水質に依存し,不活化に必要なCT値が水温,pHごとに定められてきた.近年,同じウイルス種内でも塩素耐性に違いがあることが示された.本研究は,高耐性株の存在が実際の浄水の塩素処理効率に及ぼす影響を評価することを目的とした.多摩川,相模川のF特異RNA大腸菌ファージGI型の塩素耐性を評価し,同種内の遊離塩素耐性のばらつきを考慮した不活化モデルを作成した.GI型野生株の86%(30/35株)で,実験室株MS2, frより塩素耐性が高かった.また,MS2の8 log不活化が期待できるCT値では,GI型野生株の全体不活化率が,5.3-5.6 logにとどまると算定された.環境水中におけるウイルスの消毒効果の推測では,実験室株によって代替するのではなく,種内の遊離塩素耐性のばらつきを算入した不活化モデルを採用すべきである.