2022 年 78 巻 5 号 p. I_429-I_439
本研究は,日本の2050年温室効果ガスネットゼロ排出目標について,先行研究で考慮されていた大気中からCO2を除去する技術による負の排出に加え,多様な方策を考慮したシナリオ分析を実施し,その実現性や対策・費用を評価した.国内対策シナリオとして,水素等の代替燃料拡大,エネルギー需要低減により,負の排出への依存を低減する可能性が示された.海外からの水素等の輸入,排出枠の購入による残存排出の相殺も選択肢となるが,これらはエネルギー・排出枠の輸入額の増加を伴い,2050年の輸入額は2010年を上回る水準となり得ることが明らかとなった.本研究はネットゼロ排出達成に向けた多様な道筋を明らかにした一方で,いずれのシナリオも技術,経済面での課題があり,今後の技術開発,国際制度の状況等を踏まえた継続的な戦略検討の必要性が示唆された.