土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
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環境工学研究論文集 第59巻
下水処理放流水の衛生学的安全管理のための環境予測微生物学的アプローチによるウイルス塩素消毒モデリング
石井 敦大大石 若菜門屋 俊祐佐野 大輔
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2022 年 78 巻 7 号 p. III_11-III_21

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抄録

 下水処理水の塩素消毒条件は,CT値等の消毒条件と対数除去率(Log Reduction Value: LRV)の関係を表すウイルス除去モデルに基づき設定することが望ましい.しかしながら,pHや懸濁物質濃度などの水質の変動が下水処理水中のウイルス除去率に与える影響を考慮した予測不活化モデルは構築されていないのが現状である.そこで本研究では,正則化回帰分析を用いて,下水二次処理水の水質データ,消毒条件及びウイルス定量法の種類を説明変数としてLRVを予測するモデルの構築を試みた.系統的文献検索によりLRV及びLRVが得られた水質及び消毒条件を収集し,種々の正則化回帰手法を用いてモデリングを行った.その結果,最も高い予測精度が得られたモデルは,説明変数として線形項及び相互作用項(各説明変数同士の積)を採用し,アルゴリズムとしてはAutomatic Relevance Determination(ARD)を適用したものとなった.試験ウイルスとしてエンテロウイルス71,実験用溶液として下水二次処理水を用いてモデルの適用可能性の検証実験を行ったところ,説明変数として線形項及び相互作用項を採用し,アルゴリズムとしてBayesian Ridgeを適用して構築したモデルでは,過学習を回避しつつ,高い予測精度を得られる結果となった.しかしながら,2 LRVよりも小さい範囲では予測値が観測値を上回る結果が多く確認された.この結果は,実験室株の塩素消毒への感受性が低いことや,使用した説明変数以外の要因がエンテロウイルスの塩素消毒効率に影響を与えていることが原因であると考えられた.水中ウイルスの消毒に関する既往の報告では,予測精度の良いモデルを構築するために必要な下水二次処理水質や対象ウイルスの消毒剤感受性に関する詳細なデータが欠けていたことから,今後はウイルス株間の感受性の多様性やウイルス消毒効率を低減する下水中の因子候補に関するデータを蓄積していくことが望ましい.

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