2022 年 78 巻 7 号 p. III_391-III_399
化学肥料合成・消費によって水環境への窒素放出が増している.藻類種の化学組成の変化は,二次生産者への餌料価値や沈降・分解を通じた底層環境への作用にも影響しうる.本研究では単一珪藻種を用いて,培養海水の窒素濃度が細胞の化学組成(炭素,窒素,必須脂肪酸),酸素消費,沈降速度に及ぼす影響を評価した.その結果,3.0mg-N/L系までは窒素濃度が高いほど炭素量あたりの必須脂肪酸含有量が高く,餌料的価値も高くなることが示された.しかしそれ以上の窒素濃度では必須脂肪酸含有量が低下した.同珪藻種が必須脂肪酸を効率的に合成し高い含有量で保持できる海水中の窒素:リン比は,12:1であることも示唆された.珪藻細胞の沈降速度への培養海水の窒素濃度の影響は見られなかったが,増殖期の酸素消費速度は海水窒素濃度と正の関係があり,沈降後の底層環境への悪影響が大きい可能性が示唆された.