2022 年 78 巻 7 号 p. III_73-III_80
下水処理水には既知・未知の様々な化学物質が低濃度で残留していることから,水の循環利用における安全・安心を確保するためには,包括的な水質の評価・監視が必要である.本研究では,高度下水処理水と飲用水の水質を比較することを目的として,機械学習に基づく異常検知手法を3次元蛍光データに適用し,蛍光特性に基づき飲用水水質をモデル化するとともに,飲用水と高度下水処理水の総合的な水質の類似性を定量的に比較した.全国各地から387検体の飲用水サンプルを収集し,Deep SVDDを用いた3次元蛍光データの学習により,飲用水が共通して有する蛍光特性のモデルを構築した.異常度(当該モデルとの乖離の程度)の算出結果から,飲用水水質も採水地や採水時期によって多様性があることがわかった.また,RO透過水の水質は,飲用水水質のばらつきの範囲内には収まらないものの,希釈したMBR処理水に比べはるかに飲用水水質に類似することが示唆された.インラインLC-EEMを用いた詳細な蛍光分析において,高度下水処理水中の蛍光物質は比較的小さい分子量を有することが明らかとなった.EEMスペクトルデータの活用に際し,機械学習に基づく異常検知手法の適用が有用である可能性が初めて示された.