2019 年 75 巻 2 号 p. I_475-I_480
汽水域では潮汐の影響により塩分濃度が時空間的に変化するため,生態系の保全管理のためには生物ごとに生育に適した環境がどこに形成されるか明らかにする必要がある.本研究では汽水域三次元流動シミュレーションに粒子追跡モデルを追加し,汽水魚が産卵した後の浮遊挙動を推定するモデルを構築した.粒子モデルには,魚の卵と周囲水の密度差に起因する浮上沈降の効果を組み込んだ.また,粒子追跡計算では,z-coordinateの地形表現に起因する粒子トラップを回避する修正を施した.本モデルを筑後川感潮域に生息する特産汽水魚のエツCoilia nasusの卵に適用し,産卵後の卵の移動特性を解析した.モデル化粒子と浮力を考慮しない中立浮遊粒子の挙動を比較した結果,中立浮遊粒子に比べて河口へ流出が抑えられ,モデル化粒子の有効性を示すことができた.生存状況と卵が接触した累積塩分量の関係を用いて,最適な産卵場所を逆推定した結果,既往研究で示された生物学的な知見との対応関係を考察することができた.