抄録
本研究では,セメント硬化体を透過膜とした拡散セル試験を通じて,希硫酸,希塩酸,硫酸ナトリウム,塩化ナトリウムがセメント硬化体に作用したときの鉱物の変質とイオンの拡散特性を整理することを試みた.その結果,プロトンの作用による細孔溶液中のpHの低下がポルトランダイトの溶解を促進するメカニズムやアニオンの浸透による鉱物の溶解メカニズムを整理し,これに基づいてモノカーボネートが主要なAFm相として存在しているセメント硬化体のエトリンガイトの生成による膨張破壊メカニズムを整理した.さらには,アニオンの拡散特性は共存するカチオンの影響を受ける可能性があることを示し,塩化物イオンの拡散や硫酸イオンの浸透に伴うセメント硬化体の膨張破壊を検討する上で,この影響は無視できないものであることを示した.