抄録
貝殻を円筒形のメッシュパイプに詰めた貝殻構造物は,海中において多様な底生生物・付着生物の好適な棲息場として機能することがこれまでの研究で明らかとなっている.本研究では,全国31海域における貝殻構造物に生息する小型動物を海区ごとに区分し,魚類に摂餌される餌料動物と懸濁物食性動物に分類した.前者については魚類を通じた食物連鎖による炭素循環量,後者についてはろ過摂餌による海中の有機懸濁物(TOC)の除去量を定量化し,貝殻構造物をベースとした物質循環についての評価を行った.その結果,貝殻構造物1m3当たり年間約10~13kgの有機炭素が除去され,これをCODに換算すると人工干潟65~79m2に相当し,下水処理場における費用では人口1.2~1.7人,年間56~76千円相当の経済効果を見込まれ,沿岸域における物質循環促進技術としての有効性を示すことができた.