日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
離散化された符号付き距離関数に関する感度に基づくレベルセットトポロジー最適化法
山崎 慎太郎野村 壮史佐藤 和夫西脇 眞二山田 崇恭泉井 一浩
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2009 年 2009 巻 p. 20090012

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抄録

本論文では,レベルセット法に基づく新しい構造最適化法を提案する.レベルセット法は,2相の形状をレベルセット関数と呼ばれるスカラ関数のゼロ等値面で表現する,オイラー座標系に基づく形状表現法であるので,レベルセット法を用いる場合,数値計算用メッシュを固定したままで様々な形状を表現することが可能である.このため,レベルセット法に基づく構造最適化では,形状と形態が初期形状と大きく異なる最適構造を得ることが可能である.さらに,レベルセット関数のゼロ等値面により構造物の形状が明確に識別されるため,均質化法もしくは密度法を用いた設計空間の緩和に基づく構造最適化法と異なり,グレースケールを含まない明瞭な境界を持った構造が最適解として得られる.構造物の形状を表現するレベルセット関数としてLipschitz連続な任意の関数を用いることができるが,ゼロ等値面に対する符号付き距離関数を用いると,精度の高い計算結果が得られる.このため,本論文では,有限要素メッシュで離散化された符号付き距離関数をレベルセット関数として用いて構造物の形状を表現し,各節点において離散化されたレベルセット関数に関する感度を計算し,これに基づきレベルセット関数を更新する.感度に基づいてレベルセット関数を更新すると,レベルセット関数はゼロ等値面に対する符号付き距離関数ではなくなるので,更新後にゼロ等値面に対する符号付き距離関数となるよう,レベルセット関数を再初期化する.初期構造を表現するレベルセット関数を初期値として与え,ここで述べた更新手続きを繰り返すことにより,最適構造を表現するレベルセット関数が得られる.本論文では,上述の更新手続きに基づく方法を平均コンプライアンス最小化問題に適用する.このため,レベルセット法に基づき平均コンプライアンス最小化問題を定式化し,各節点において離散化されたレベルセット関数に関する平均コンプライアンスの感度を導出する.平均コンプライアンスの感度のみに基づいて最適化を行うと,問題設定によっては過度に複雑で製造コストの高い最適構造が得られる.この問題を解決するために,構造物の外周長(以下,ペリメータと表記する)についても感度を導出し,平均コンプライアンスだけでなく,ペリメータの感度も用いて最適化を行う.これにより,ペリメータの小さい単純な最適構造が得られる.本論文で提案する構造最適化法の妥当性を検証するために,簡単な設計問題を幾つか用意し,本論文で提案する構造最適化法を用いてどのような最適構造が得られるか調べた.まず最初に,各節点において離散化されたレベルセット関数に関する感度と,連続系において導出される感度との比較を行った.この比較の目的は,連続系の感度に基づいてレベルセット関数を更新する従来の構造最適化法と,離散系の感度に基づく本方法との差異を明確化することである.有限要素メッシュを用いてレベルセット関数を離散化する場合,連続系において導出される感度も,何らかの方法を用いて近似的に離散化せざるを得ない.これに対し,離散系の感度は,レベルセット関数が離散化されているという前提に基づいて厳密に計算される.数値例を用いて両者を比較すると,離散系の感度の方が滑らかに分布しており,フィルタリング法等の感度平滑化法を用いずとも,形状が滑らかな最適構造が得られることが分かった.次に,ペリメータの感度が最適構造に与える影響について調べた.ここでは,レベルセット関数更新に用いる平均コンプライアンスとペリメータの感度の割合を変化させて,最適構造がどのように変化するか調べた.その結果,ペリメータの感度の割合が大きくなる程,よりペリメータが小さい単純な最適構造が得られることが分かった.最後に,有限要素メッシュ粗さへの依存性について調べた.本論文で提案する構造最適化法を用いる場合,有限要素メッシュ粗さが変化すると,得られる最適構造が変化することが分かった.すなわち,最適構造は有限要素メッシュ粗さに依存する.しかしながら,レベルセット関数更新に用いるペリメータの感度の割合を適切に設定することにより,得られる最適構造の有限要素メッシュ粗さに対する依存性を低減できることが分かった.

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© 2009 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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