2018 年 2018 巻 p. 20180008
鉄筋コンクリートには,大小様々なひび割れが発生する.大きいひび割れは構造物の力学性能を低下させ,たとえ目に見えない小さなひび割れであっても,水やイオンの移動経路となり,鉄筋を腐食させるため,構造物の耐久性を低下させる.鉄筋コンクリートに生じるひび割れは3次元的に発生・進展を繰り返すため,実験的にも,解析的にも,精度よく捉えるのが困難という問題がある.鉄筋コンクリートに発生・進展するひび割れの3次元幾何形状を精度よく再現し,その結果をわかりやすく可視化することができれば,損傷状態の直観的な理解や,複雑な力学機構の解明に役立つと考えられる.
本論文では,物理シミュレーションを用いて,鉄筋コンクリート内部に形成するひび割れ進展挙動を3次元で詳細に再現し,その3次元幾何形状を3Dプリンタを用いて立体的に造形化する方法を提案する.物理シミュレーションには,破壊力学に基づく損傷モデルを用いて,著者らが既往の研究で開発した手法を用いる.本研究の新規性および可視化の特徴は,空気の部分に当たるひび割れを立体的に具現化し,通常は見えない部材内部のひび割れ進展挙動まで3次元で詳細に造形化する点にある.
第2節では,本研究で用いる物理シミュレーションの定式化について示す.第3節では,鉄筋コンクリートの引張と曲げに関する問題を対象に,部材内部および鉄筋まわりに進展するひび割れを再現し,3Dプリンタを用いてひび割れの3次元幾何形状を造形化した例を示す.最後に,本研究の総括を行い,課題と今後の予定について述べる.