日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
割線剛性を用いた簡便なマルチスケール解析による膨張性地山のトンネル安定性評価
劉 暁東鵜之沢 均加藤 準治京谷 孝史
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2018 年 2018 巻 p. 20180014

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抄録

近年, 膨張性粘土鉱物を含む地山の吸水膨張によってトンネルなどの地中構造物が損傷するといった問題が起きている. このような吸水膨潤反応を示す粘土は「スメクタイト類」と呼ばれ, 地中構造物へ過大な応力負荷や変形を与える原因となっている. これより, 現在, 地山材料微視構造レベルの膨張挙動を評価し, 地中構造物の設計維持管理に反映させるべく研究が行われているが, 未だ定量的なアプローチによって応力や変位量の評価を可能にする手法の確立には至っていない. 本研究では, 膨張性粘土鉱物が含んだ岩石の膨張が引き起こす地山膨張を均質化法に基づく(分離型)マルチスケール解析法を適用することで, 地山内に存在する地中構造物への影響を評価する. ただし, 本研究におけるミクロスケールはあくまで供試体レベルを想定している. これは, 膨張性粘土鉱物の膨潤は水分子の吸着のみではなく力学的・化学的要因が混在しており, 計算が煩雑になるとともに膨大な計算コストが必要となるからである.

本研究は提案した分離型マルチスケール解析法を地山の膨張挙動に適用することで, 地山中に存在する地中構造物への影響を評価する手法を開発する. 分離型マルチスケール解析では, マクロ材料構成則の関数形を仮定することが出来れば, 数値材料実験で得られるマクロ応力-マクロひずみ関係からマクロ構成則に含まれる材料パラメータを最適化アルゴリズムによって同定し, マクロ構造解析が実行可能となる. しかし, 本研究におけるミクロ構造解析では膨潤性粘土鉱物の膨張が引き起こす周囲の岩石基質部の破壊による剛性低下を考慮するが, それらを適切に表現する非線形のマクロ構成則は明らかではない. そこで本研究では非線形なマクロ構成則を定式化することはせず, いくつかの状態点における線形のマクロ応力-マクロひずみ関係を割線的に求める簡便法を提案する. この手法を採用することで複雑な非線形マクロ構成則の定式化が不要となり, 大幅な計算コストを削減することが可能になる.

本研究では, 膨張性粘土鉱物を含んだ地山の膨張挙動に対して, 等方性損傷構成則を適用することでミクロスケールでの膨潤とそれに伴う岩石の劣化を考慮し, それがマクロスケールにおけるトンネル構造物に与える影響の評価を行った. ここでは, ミクロスケールで発現するであろう膨張を膨潤ひずみを定義し, それに伴う劣化を等方性損傷構成則を用いて表すことを可能にした. さらに膨潤挙動を離散点において解析にすることによって, マルチスケール解析を適用しつつ割線的に非線形問題を解くことを可能とした.

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© 2018 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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