【目的】嚥下機能障害の程度と実際の摂食状態が一致しない高齢摂食・嚥下障害症例を経験することは多い.今回,嚥下機能障害が軽度にも関わらずST初診時に経管栄養または点滴により栄養を摂取していた高齢患者について,初診時所見と摂食・嚥下訓練の経過を後方視的に調査し,高齢患者の諸特徴と摂食・嚥下リハビリテーションの帰結との関係を検討した.
【方法】対象は,初診時に1)65歳以上,2)脳卒中慢性期,3)非経口,4)嚥下機能障害が軽度であり,かつ直接訓練の開始が可能であった30名.退院時に補助栄養手段が不要となった「良好群」,補助栄養手段を必要とした「不良群」に分類し,初診時の全身状態,肺炎の既往,活動状態,精神状態,意欲,訓練経過所見として発熱回数と1食あたりの摂取量変化を比較した.
【結果】良好群20名,不良群10名であった.発症後期間は良好群で長かった.活動状態は2名が準寝たきり,他は全て寝たきり状態,精神状態は27/30名で認知症であり,両群で差を認めなかった.意欲は不良群で有意に低かった.認知症重度でかつ意欲低下重度の場合でも半数は経口摂取を再獲得できていた.訓練経過をみると良好群では15名(75%)が10日以内に摂取量の目標値に到達したのに対し,不良群では到達したものはなかった.発熱回数は不良群でやや多い傾向であったが有意な差はなかった.
【考察】嚥下機能に比し摂食状態が不良な高齢患者は,寝たきり状況にあり,認知症を伴っていて,低意欲であった.こうした状態であっても2/3の患者で経口摂取の再獲得が可能であり,摂食・嚥下訓練の意義は大きいと考えられた.一方,不良群では全例に重度な意欲低下があり,直接訓練を実施しても摂取量の増加が見られなかった.易感染性に十分配慮しながら10日程度の直接訓練試行を行うことで栄養摂取方法や訓練方針決定の手がかりが得られると考えられた.