2009 年 13 巻 3 号 p. 192-196
【目的】咽頭期嚥下運動には系列的な舌の食塊移送運動を伴うものと,伴わないものが知られている.本研究では前者をCPS(consecutive pharyngeal swallow),後者をIPS(isolated pharyngeal swallow)として,両者の舌骨運動軌跡を比較した.
【対象と方法】摂食・嚥下障害のない健常人53 名を対象とした.被験者にバリウム含有コンビーフ4 g と液体5 ml の混合物を摂取させた際の咀嚼嚥下について,嚥下造影を2 試行した.記録された映像から各試行の1 嚥下目と2 嚥下目をCPS とIPS に分け,それぞれの舌骨運動の解析を行った.水平,上下方向の最大移動距離,嚥下反射後舌骨が上前方へ移動し停止した位置までの距離と要した時間を計測した.距離についてはC3 椎体前縁の長さで除して体格補正をした.
【結果】53 人106 試行中,1 嚥下目ではIPS 26 試行,CPS 80 試行,2 嚥下目ではIPS 0 試行,CPS が106 試行生じていた.1 嚥下目にIPS を認めた18 名26 試行をA 群,1 嚥下目にCPS を認めた症例から年齢を合致させて選んだ20 名30 試行をB 群として両群の舌骨軌跡を比較した.A 群の年齢は61±17 歳,B 群は61±18 歳であった.A 群では3.6±0.9 回で食塊すべてを嚥下していたが,B 群では2.6±0.9 回(いずれも平均値±標準偏差)であり,A 群で嚥下回数が有意に多かった.IPS はCPS に比し水平,上下方向での最大移動距離,嚥下反射後舌骨が前上方へ移動し停止した位置までの距離と要した時間がいずれも有意に小さかった.
【結論】IPS は小さく,速く行われる咽頭期嚥下運動であり,通常の嚥下でも生じている気道防御的な嚥下運動と推測された.