【目的】 嚥下造影検査(VF)で観察される誤嚥には,検査試料の不随意咽頭滑落に引き続いて起こるものがある.このような誤嚥に対し,姿勢調節法,飲食物の物性調節が適応されることが多い.飯田らは口腔咽頭腔の実物大模型を被写体とした嚥下造影検査シミュレーションシステムを開発し,検査試料の滑落速度を検討している.今回は姿勢調節法と検査試料の物性が不随意咽頭滑落に与える影響を,VFシミュレーションを用いて検討した.
【材料と方法】 生体の舌・咽頭部のコーンビームCT 画像データをもとに3 種類の実物大口腔咽頭模型を造形した.円柱状の石膏模型内部に頸部垂直位,頸部前屈位,左頸部回旋位の口腔咽頭腔を再現した.バリウム造影剤,およびバリウム造影剤に液状増粘剤を添加した試料,プリン,クリームなどの造影剤加模擬食品を調節した.テクスチャ解析システムにて,かたさ,付着性,および凝集性を計測した.
各試料を模型の舌背の中央,左側,右側より滴下した.舌背斜面を滑落するシミュレーション画像を取得し,滑落速度と滑落経路を計測した.
【結果】 90 W/V% に調整した液状バリウム造影剤試料は模型の種類によらず高速で舌背斜面を滑落し,5W/V% 以上の水溶性増粘剤の添加によって滑落速度を1/10 程度に減じた.頸部前屈位模型は他の模型と比較して液状バリウム造影剤の滑落速度を減じた.造影剤加模擬食品の滑落速度は液状バリウム造影剤より遅く,粘性を付与した造影剤試料より速かった.
頸部垂直位模型,および頸部前屈位模型では,滴下位置によらず,試料は正中を滑落したが,頸部回旋位模型では,試料が回旋側を流れた.
【考察】 液体の滑落速度を減速するのに頸部前屈位が有効な可能性が示唆された.
能動輸送において,頸部回旋は非回旋側へ飲食物を誘導する.しかし,不随意咽頭滑落においては試料が意図せぬ経路をたどる.
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