日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
摂食・嚥下障害患者の咳閾値と咳テストのクエン酸至適濃度の研究
鈴木 瑠璃子
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2012 年 16 巻 1 号 p. 13-19

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抄録

【目的】より精度の高い不顕性誤嚥(silent aspiration,以下SA)のスクリーニングを咳テストにて行うために,クエン酸を用いた嚥下障害患者の咳閾値やクエン酸の至適濃度について検討した.

【対象と方法】嚥下障害を認め,嚥下内視鏡検査(videoendoscopic examination of swallowing,以下VE)もしくは嚥下造影検査(videofluoroscopic examination of swallowing,以下VF)を実施した21 歳から92歳の患者94名(男性64名,女性30名,平均年齢66±13歳)を対象として咳テストを実施した.

超音波ネブライザから1 分間クエン酸生理食塩水を吸入させ,咳反応を観察した.1 分間で咳が5 回以上みられた濃度を,被験者の咳閾値と設定した.咳が4 回以下であれば,5 回認められるまでクエン酸の濃度を上げて,咳テストを実施した.クエン酸の濃度は,0.25,0.5,1.0,2.0,4.0,8.0% とした.得られたデータより,SA のスクリーニングの感度,特異度を求め,ROC 曲線を作成した.

【結果】各濃度における感度・特異度を求めると,0.25% では感度0.95,特異度0.07,陽性反応的中度(positive predictive value,以下PPV)0.23,陰性反応的中度(negative predictive value,以下NPV)0.83,0.5% では感度0.95,特異度0.22,PPV 0.26,NPV 0.94,1% では感度0.71,特異度0.54,PPV 0.31,NPV 0.87,2% では感度0.38,特異度0.92,PPV 0.57,NPV 0.84,4% では感度0.05,特異度0.99,PPV 0.50,NPV 0.78,8% では感度0.00,特異度1.00,PPV 0.77,NPV 0.00 であった.以上の結果より,ROC 曲線を作成した.ROC 曲線下面積は0.81 であった.ROC 曲線と感度・特異度からカットオフ値を検討したところ,クエン酸の至適濃度は1.0% であった.

咳閾値は,全体の平均が1.55±1.44% であった.VE・VF の結果による各群の咳閾値は,誤嚥無群1.26±1.25%,顕性誤嚥群1.21±1.03%,SA 群2.63±1.78% であった.SA 群は,誤嚥無群と顕性誤嚥群の両者にて有意差が認められた(p<0.01).

【結論】咳テストのクエン酸水溶液至適濃度は1.0%であった.また,SA群は,誤嚥無群と顕性誤嚥群両者と比較して,咳感受性が著しく低下していることが明らかとなった.

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© 2012 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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