日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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Print ISSN : 1343-8441
症例報告
長期的摂食・嚥下訓練によって経口摂取を獲得したMarchiafava-Bignami病の1例
中川 量晴三瓶 龍一河原 彌生戸原 玄吉岡 麻耶渡邊 賢礼向井 美惠
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2012 年 16 巻 1 号 p. 64-69

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抄録

【緒言】マルキアファーヴァ・ビニャミ病(MBD: Marchiafava-Bignami disease)は,アルコール多飲や栄養障害に起因し,脳梁やその他の白質病変によって意識障害や痙攣などの症状を呈する特異的な疾患である.今回われわれは,重度嚥下障害のMBD 患者に摂食・嚥下リハビリテーション(以下,嚥下リハ)を実施し,経管栄養から経口摂取へ完全移行した1 例を経験したので,ここに報告する.

【症例】46 歳の女性.意識障害で救急搬送され,頭部MRI 所見で脳梁に高信号域があり,アルコール多飲の既往があったためMBD と診断された.発症から2 カ月後,急性期病院から療養病院への転院を契機に,摂食・嚥下機能の精査と食事摂取支援を開始した.

【経過】口腔周囲機能の低下があり,四肢関節可動域の制限から良肢位の確保が困難であった.著しい球麻痺症状はなく,初回の嚥下内視鏡検査(video-endoscopy,以下,VE)で,自己唾液の嚥下は可能であることを確認した.この時点で,経管栄養を継続し,口腔のケアや口腔周囲の機能訓練および筋力増強訓練,低強度の可動域訓練等を主として実施した.転院後65 日目のVE 再評価でゼリーの誤嚥を認めなかったため,介助下でゼリーの直接訓練を開始した.錐体外路症状と考えられる両側上下肢肢位異常の影響で自立摂取は困難であったが,姿勢保持や手首と肘の運動を補助して食具を口腔へ運ぶ訓練を繰り返した.その後もVE で,誤嚥がないことを確認しながら,最終的に部分介助でペースト食の経口摂取が可能となった.また,姿勢保持訓練等が奏効し,患者の機能的自立度評価スコアは,摂食・嚥下機能の向上に従い,認知項目・運動項目ともに若干向上した.

【まとめ】これまで口腔や嚥下機能に関する報告がないMBD 患者に対して,嚥下リハを実施することにより,一定の機能改善を認めた.MBD は,その治療過程において,摂食・嚥下機能障害を見過ごさないことが重要で,それへの適切な対応により,合併症を減らし全身状態の安定,ADL 向上に寄与する可能性が示唆された.

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© 2012 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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