日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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症例報告
カニューレカフ上吸引ラインからの送気訓練を実施した気管切開患者の1症例
小池 一郎小口 和代保田 祥代
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2015 年 19 巻 1 号 p. 69-74

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抄録

本症例は,23 歳の男性であった.勤務中,ベルトコンベアに頭部,体幹,左上肢を挟まれ左肩甲骨骨折,左多発肋骨骨折,左血気胸,両側肺挫傷と診断された.受傷1 日目,経口気管内挿管管理にて,保存的加療となった.受傷13 日目,挿管性と考えられる両側声帯麻痺を認めたため,気管切開術を施行し,カフ付側孔なしカニューレの装用を開始した.受傷17 日目,咽頭の唾液貯留や唾液誤嚥を認めたため,カニューレカフ上吸引ラインからの酸素送気による発声と唾液嚥下訓練(以下,送気訓練)を導入した.酸素1 ~ 3 l/min を使用し,喉頭侵入あるいは誤嚥した唾液を送気により吹き上げ,唾液嚥下を繰り返した.受傷34 日目,内視鏡や酸素送気の刺激で唾液分泌が増加し,送気訓練を継続的に実施するのは困難であったため,持続的酸素送気訓練から,間欠的に送気する方法に変更した.受傷42 日目,両側の声帯内転運動の改善と下咽頭から声門部の唾液貯留の減少を確認できたため,スピーチカニューレに変更した.受傷50 日目,スピーチカニューレを抜去した.

経過中,送気訓練導入日である受傷17 日目と,スピーチカニューレ抜去日である受傷50 日目に随意的な唾液嚥下を計測した.評価方法は,本症例に「できるだけ何回も繰り返して唾液を飲むこと」を指示して,綿棒で口腔内を湿らせてから計測を行った.結果は,受傷17 日目と受傷50 日目それぞれにおいて送気なしに比し,送気ありでは随意的な唾液嚥下連続10 回実施所要時間の短縮を認めた.

本症例は,送気により命令に応じた反復唾液嚥下回数を即時的に向上させ,唾液嚥下を繰り返すことで嚥下関連筋群を強化することができた.また,発声により声帯運動の廃用を最小限に抑えたことで,唾液処理の能力が改善した可能性が考えられた.

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© 2015 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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