日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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短報
口腔の剥離上皮膜に対する保湿剤の予防効果の検討
岩崎 仁史小笠原 正篠塚 功一轟 かほる小澤 章岡田 芳幸蓜島 弘之沈 發智落合 隆永長谷川 博雅柿木 保明
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2016 年 20 巻 2 号 p. 86-93

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抄録

【目的】経管栄養の要介護者では,口腔内に膜状物質が見られることがある.膜状物質の鏡顕所見は,すべての膜状物質に口腔粘膜の重層扁平上皮由来の角質変性物とムチンが観察され,口腔の重層扁平上皮が剥離したものとして剥離上皮や剥離上皮膜と呼ばれている.剥離上皮膜の形成条件は経口摂取していないことであり,形成要因は口腔粘膜の乾燥が関与しているが,保湿が剥離上皮膜の形成抑制に有効であるか否かは,明らかになっていない.今回,剥離上皮膜の予防に対する保湿剤の有効性について検討した.

【方法】入所中の要介護者のうち経管栄養あるいは中心静脈栄養管理がなされている33 名を調査対象者とした.調査対象者は全員が一切経口摂取を行っていなかった.調査対象者全員が要介護であり,1 日2 回の介助磨きが実施されていたが,粘膜ケアは実施されていなかった.通常の口腔ケアを1 週間継続した状態をベースラインとし,看護師によるリキッドタイプの保湿剤の噴霧を1 日5 回以上,ベースライン時と4 日目の2 回の介助歯磨きと2 回のジェルタイプの保湿剤の使用を歯科医師が実施した.ベースライン調査,介入後調査共に膜状物質の形成の有無と部位(口蓋,舌,頬粘膜,歯)を確認した.

【結果】部位別の剥離上皮膜は,ベースライン調査,介入後調査でいずれも口蓋部に最も多く認められた.ベースラインで2 番目に多かったのが舌背部であった.ただし歯面の剥離上皮膜は,介入により減少しなかった.ベースライン調査では,8 名が1 部位,3 名が2 部位,1 名が3 部位に剥離上皮膜を認めた.介入により剥離上被膜が消失したのは5 名であった.ベースラインと比較して介入後は,形成部位が有意に減少したが,7 名は消失しなかった.

【結論】剥離上皮膜は,保湿剤の使用により形成を減少させる可能性が示唆された.しかしながら,保湿剤の噴霧だけでは完全に形成抑制できないので,口腔粘膜の乾燥レベルに応じた噴霧量の検討や方法,そして粘稠性の剥離上皮膜を清拭により除去するなど,さらなる検討が必要であると思われた.

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© 2016 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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