【目的】大豆は良質な植物性タンパク質給源であり,特に,黒大豆にはアントシアニン系のポリフェノール類が含まれ,抗酸化性が認められている.しかし,摂食嚥下機能が低下した人にとっては,よく煮熟した煮豆でも種皮の残存により咀嚼,嚥下し難いとされている.本研究では,高タンパク質濃度の分離大豆タンパク質を用い,黒大豆煮汁を添加したゲルを調製した.黒大豆煮汁添加ゲルのテクスチャー特性,官能評価および嚥下造影検査を行い,嚥下調整食への適応性を検討した.
【方法】黒大豆煮汁添加ゲルの調製は,分離大豆タンパク質に黒大豆煮汁を加え,分離大豆タンパク質濃度は14%,15%,16%,17% とした.加熱処理は,各試料を85℃の恒温槽中で加熱した(加熱ゲル).加圧処理には食品加圧試験装置を用い,400 MPa の静水圧で20 分間加圧した(加圧ゲル).物性測定は,「えん下困難者用食品許可基準」の測定基準に基づき,クリープメーターでテクスチャー値を測定した.官能評価は健常な若年女子を対象とし,総合評価に影響する要因を共分散分析で解析した.嚥下造影検査(VF)は嚥下障害患者を対象とし,嚥下動態の解析には画像解析ソフトを用い,VF側面像から食塊通過時間を計測した.
【結果・考察】黒大豆煮汁添加ゲルのテクスチャー値は,えん下困難者用食品許可基準に準拠した.官能評価では,加圧ゲルは加熱ゲルに比べて,飲み込みやすく,残留感がないとされた.嚥下造影検査による嚥下動態において,加圧ゲルではまとまった食塊が形成され,喉頭蓋谷領域,下咽頭領域通過時間が短く,嚥下しやすい性状であることが示唆された.これらのことから,各ゲルは「摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食2013」の早見表の項目から評価すると,14~16% 加熱,加圧ゲルはコード1j,17%加熱,加圧ゲル共に嚥下調整食3 に対応した.高栄養,高機能性によって,黒大豆煮汁添加ゲルの嚥下調整食への適応性が確認された.
【目的】日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会内に設置された発達期嚥下調整食特別委員会では,全国で共通する発達期嚥下調整食分類を作成することを目的に,今回は発達期障害児者(以下,発達期障害)の所属する施設,特別支援学校(以下,特支学校)に対して,昼食に関する実態を把握するためにアンケート調査を行った.
【対象と方法】全国の重症心身障害児者の入所施設,通所施設と,東京都と静岡県の分校を除く特支学校の502 施設にアンケートを郵送した.このうち,協力が得られ回答に不備のない318 施設(有効回答率63.3%)を対象とし,アンケート結果を集計して実態把握を行った.
【結果および考察】提供している食形態の区分は,入所施設・通所施設,特支学校ともに多岐にわたっており,嚥下機能に対して細かい対応がなされていることが推察された.しかし,手元調理/ 二次加工(以下,二次加工)は,さらに各区分において行われており,発達期障害に対する食形態の調整は個々の機能に合わせて提供されていることがうかがえた.各区分で使用されている名称は,特支学校と比較して,入所施設,通所施設のほうがさまざまな名称を使用していた.さらに,同一名称であっても,提供されている形態は,入所施設,通所施設,特支学校において異なるものであった.これらのことから,施設,特支学校ともに嚥下調整食を提供しているものの,その名称や物性は統一されていないことがわかった.
【結論】今後,発達期障害に対して,全国で共通する発達期嚥下調整食の分類とその名称を作成するために,今回の全国調査は有用であると考えられる.
介護保険施設において,口腔ケアおよび摂食指導を必要としている要介護高齢者は少なくない.今後,研修歯科医が食事の場面に立ち会い,摂食指導をすることが重要であるが,その機会はまだ少ないと考えられる.新潟大学では,特別養護老人ホームを週に1 回訪問し,口腔ケアや摂食指導を行っているが,その際に研修歯科医が2 ~ 3 名ずつ同行して,実際の口腔ケアや摂食指導を研修している.今後,よりよい研修プログラムを提供するため,研修歯科医の介護保険施設における口腔ケアおよび摂食指導の経験の有無や,本プログラムを研修した感想等に関するアンケート調査を実施した.
対象は,2009~2013 年度に,口腔ケアおよび摂食指導の研修を行った本学研修歯科医144 名とし,口腔ケアおよび摂食指導に対する知識・経験の有無について調査した.
その結果,80.4% が口腔ケアの知識があると回答していたが,実際に口腔ケアあるいは摂食指導を経験したことがある者は少なかった(口腔ケア56.6%,摂食指導18.2%).また,大半が,口腔ケアおよび摂食指導が勉強になったと回答していた.口腔ケアあるいは摂食指導に対する歯科専門スタッフの介入価値があると思うと回答した者は,口腔ケアでは82.5%,摂食指導では78.3% と高い割合を示した.
要介護高齢者の数は増加の一途をたどっており,今後,口腔ケアおよび摂食指導において歯科医師が果たす役割は,ますます大きくなっていくと思われる.患者家族やコメディカルに摂食指導をする立場にある歯科医師の臨床研修に,介護保険施設等における口腔ケアおよび摂食指導を導入することは重要であるといえる.
【目的】経管栄養の要介護者では,口腔内に膜状物質が見られることがある.膜状物質の鏡顕所見は,すべての膜状物質に口腔粘膜の重層扁平上皮由来の角質変性物とムチンが観察され,口腔の重層扁平上皮が剥離したものとして剥離上皮や剥離上皮膜と呼ばれている.剥離上皮膜の形成条件は経口摂取していないことであり,形成要因は口腔粘膜の乾燥が関与しているが,保湿が剥離上皮膜の形成抑制に有効であるか否かは,明らかになっていない.今回,剥離上皮膜の予防に対する保湿剤の有効性について検討した.
【方法】入所中の要介護者のうち経管栄養あるいは中心静脈栄養管理がなされている33 名を調査対象者とした.調査対象者は全員が一切経口摂取を行っていなかった.調査対象者全員が要介護であり,1 日2 回の介助磨きが実施されていたが,粘膜ケアは実施されていなかった.通常の口腔ケアを1 週間継続した状態をベースラインとし,看護師によるリキッドタイプの保湿剤の噴霧を1 日5 回以上,ベースライン時と4 日目の2 回の介助歯磨きと2 回のジェルタイプの保湿剤の使用を歯科医師が実施した.ベースライン調査,介入後調査共に膜状物質の形成の有無と部位(口蓋,舌,頬粘膜,歯)を確認した.
【結果】部位別の剥離上皮膜は,ベースライン調査,介入後調査でいずれも口蓋部に最も多く認められた.ベースラインで2 番目に多かったのが舌背部であった.ただし歯面の剥離上皮膜は,介入により減少しなかった.ベースライン調査では,8 名が1 部位,3 名が2 部位,1 名が3 部位に剥離上皮膜を認めた.介入により剥離上被膜が消失したのは5 名であった.ベースラインと比較して介入後は,形成部位が有意に減少したが,7 名は消失しなかった.
【結論】剥離上皮膜は,保湿剤の使用により形成を減少させる可能性が示唆された.しかしながら,保湿剤の噴霧だけでは完全に形成抑制できないので,口腔粘膜の乾燥レベルに応じた噴霧量の検討や方法,そして粘稠性の剥離上皮膜を清拭により除去するなど,さらなる検討が必要であると思われた.