2000 年 4 巻 1 号 p. 11-19
嚥下リハビリテーション(嚥下リハと略す)は多職種によるチームアプローチが理想とされる.しかし現状は,施設や地域により,関わっている職種もその関わり方もさまざまである.当院では1997年より耳鼻咽喉科(耳鼻科と略す)医と言語聴覚士(STと略す)が中心となり嚥下リハを行ってきたが,主治医,看護婦,栄養士,リハビリスタッフなどとの連携が円滑とはいえず,誰がどのように関わり合えばよいか不明の点が多かった.画一的にはチームアプローチを論ずることはできないがチームアプローチを行う上で施設問の関わる職種の差を超えた共通の問題は多いと考えられる.各施設の問題点を明らかにし施設毎の嚥下リハの限界と解決策を呈示することは,他施設の今後のチームアプローチのあり方を考えるのにも役立つと考え,我々の経験した嚥下リハ症例を検討した.
検討対象は耳鼻科医が直接嚥下リハに関わった6症例である.各症例について,誰が訓練の必要性を感じたか,誰が検査し評価したか,誰が訓練をおこなったかを中心に,VE, VFの実施状況を併せて振り返り,耳鼻咽喉科医とSTの立場からみた問題点を検討した。それぞれ視点は異なるものの,特に,主治医の嚥下障害に対する認識不足が共通の問題点として挙げられた.嚥下リハのリーダーとしての医師の不在がチームリハ実現の大きな妨げになっていると考えられた.
現状ではすべての施設でリハ医などを中心とした嚥下チームが組織できるとは限らない.今後,嚥下リハを向上させるためには,主治医が嚥下障害に対する認識を高め,嚥下リハに関わる各職種の役割を理解した上でチームの中核になる必要がある.そのためには,まず施設に応じた嚥下リハをおこないながら,主体となっている職種が,主治医や他職種と積極的に情報交換をすることで啓発活動を行っていくことが重要であると考える.