2000 年 4 巻 1 号 p. 20-27
3~8歳の嚥下関連器官のうち軟口蓋下端,喉頭蓋上端,舌骨,咽頭食道接合部の位置変化について,歯科用エックス線規格写真を用いて検討した.
中咽頭の長さの指標となる軟口蓋下端と喉頭蓋上端の直線距離は増齢に伴ない有意に伸長し(p<0.01),3歳児の全体の平均は11.5±3.4mm,8歳児の全体の平均は19.0±4.0mmであった.また,特に第一大臼歯の萌出期・咬合完了期である5~7歳にかけての増加が著しかった.嚥下関連器官の成長方向を検討するため,第一基準座標(X軸:トルコ鞍中央部(S)とナジオン(N)を結ぶ直線,Y軸:S点を通りX軸に垂直な直線),第二基準座標(X軸:第二頚椎前下端部を通りY軸に垂直な直線,Y軸:第二頚椎・第五頚椎の前下端部を結んだ直線),第三基準座標(X軸:S点を通りY軸に垂直な直線,Y軸:第二頚椎・第五頚椎の前下端部を結んだ直線)の3種類の基準座標を設定した.その結果,各年齢層の各計測点が第三基準座標において最も収束し,成長方向の検討には第三基準座標が適当と考えられた.さらにこの第三基準座標を用いて嚥下関連器官の成長方向について検討したところ,男女児とも増齢に伴ない各計測点は有意に下方変位していた(p<0.01).3歳と8歳の平均Y軸絶対値の比をとり変位率として各計測点で比較すると,男女児それぞれ,軟口蓋:118.4%,118.0%,喉頭蓋:124.2%,121.2%,舌骨:116.2%,114.5%,UES:123.4%,127.8%となり,計測点により違いが認められた.各計測点の増齢に伴なう変位率の違いが,咽頭全体に占める中咽頭の割合の増大に関与しているものと考えられた.