本研究は嚥下時の呼吸型および嚥下性無呼吸の持続時間に飲水の量と温度が与える影響を明らかにすることが目的である.被験者は研究参加の同意が得られた学生15人(男4人,女11人,年齢20.4±3.1歳)であった.被験者1人について,5℃/10ml,5℃/20ml,25℃/10ml,25℃/20ml,50℃/10ml,50℃/20mlの条件の水を各10回,合計60回を嚥下させた.嚥下時の呼吸軌跡と舌骨上筋群の表面筋電図を同時に測定した.
まず,嚥下時の呼吸型を分類し,各条件下での単独嚥下(1回の喉頭運動で呼吸が回復する型)とeae型(呼気‐嚥下性無呼吸‐呼気を示す型)の発現率,eae型における嚥下性無呼吸持続時間を求めた.量と温度の影響を確認するために,二元配置分散分析を用いた.さらに,各呼吸型の発現率への量の影響を確認するために,母比率の差の検定を用いた.
その結果,単独嚥下の発現率は量と温度の交互作用はみられず,量のみに有意差を認め(p<0.01),20ml量において発現率が減少した.eae型の発現率についても同様であった(p<0.05).各呼吸型の発現率は,iae型(吸気‐嚥下性無呼吸‐呼気を示す型)が20mlにおいて有意に増加した(p<0.05).次に,eae型の嚥下性無呼吸持続時間も量と温度の交互作用はみられず,量のみに有意差を認め,20mlにおいて有意に延長した(p<0.05).
以上から,嚥下時の呼吸型の発現率,嚥下性無呼吸持続時間は飲水の量によって影響されたが,温度には影響されなかった.10mlから20mlに増加した量を嚥下するために,呼吸型の発現率を変化させ,嚥下性無呼吸持続時間を延長して呼吸と協調していることが示唆された.