日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
4 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • Jeffrey B. PALMER
    2000 年 4 巻 2 号 p. 3-13
    発行日: 2000/12/30
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー
  • Tai Ryoon HAN, Nam Jong PAIK, Hyung Ik SHIN, Jin Woo PARK
    2000 年 4 巻 2 号 p. 14-29
    発行日: 2000/12/30
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    われわれは,1993年より嚥下障害患者の客観的評価のためにVFを行ってきた. VFは,嚥下障害の評価と治療方針の決定に非常に有効であり,また比較的安全な方法である.嚥下障害の臨床状態とVFの定量的評価のために,われわれは臨床機能スケールとVFスケールを開発した.これらのスケールは誤嚥のグレードとかなりよく相関しているが,長期帰結のより高い相関のために新しいバージョンを開発する予定である.

    嚥下障害の治療として,食事の調整は嚥下訓練や代償的手法と同様に非常に重要である.われわれは食品素材の粘性に基づいて,3段階の嚥下障害食システムを作った。このシステムはVFの検査手順に一致した食品の調整が行われている.また,line spread test(線拡がりテスト)は家庭において食品素材を分類するのに非常に簡便な方法である.

    われわれはVFを用いて,脳卒中後に嚥下障害を来たした患者の長期追跡調査を行った.その結果は他の報告に比べて良好であった.この嚥下障害の改善は,以上述べてきたわれわれ独自の嚥下障害食を含む治療の成果だと考えている.

    最後に,嚥下障害のリハビリテーションにおいては,治療の評価と方針の決定において医師の果たす役割が大変重要であり,医師が嚥下障害治療チームのリーダーにならなければならないと考える.

原著
  • ―訪問看護ステーション看護婦に対する質問調査―
    直江 祐樹, 高山 文博, 太田 清人, 森 正博
    2000 年 4 巻 2 号 p. 30-37
    発行日: 2000/12/30
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    摂食・嚥下障害のある患者が在宅生活をしていくためには,食事の介助や環境の整備が不可欠となる.

    今回我々は,在宅患者における摂食・嚥下障害の現状を把握すること,嚥下障害を改善する方法を検討することを目的に,三重県内の伊勢,津,久居地区の訪問看護ステーションの看護婦に対し,訪問看護を受けている患者について,アンケート調査を行った.

    訪問している患者169名中,摂食・嚥下障害がある患者の数は28名(男性14名,女性14名,16.6%),経管栄養を利用している患者は5名(3.0%)であった.

    60歳代と70・80歳代を比較すると,摂食・嚥下障害の割合は,60歳代5.3%であったのに対し,70歳代18.8%,80歳代18.7%と増加している傾向であった.

    肺炎を起こしたことがある患者は,14名(50.0%)であった.むせがある患者17名中肺炎を起こしたことがある患者は11名(64.7%),むせが無い患者11名中肺炎を起こしたことがある患者は3名(27.3%)と,むせがある患者のほうが肺炎の既往が多い傾向が見られた.

    食事の姿勢でギャッジアップ90°以上の患者では,むせる患者が11名中9名(81.8%)と多く,60°以下では,むせる患者は17名中8名(47.1%)と少なかった.普段と食事時の座位レベルが同じ患者と,座位レベルを低下させている患者のむせの有無の関係は,座位レベル同じでむせがある患者は16名中12名(75.0%),座位レベル低下でむせがある患者は12名中5名(41.7%)と,座位レベル同じの患者は,座位レベル低下の患者に比較してむせる患者が多い傾向が見られた.

    食事時間とむせの関係では,介助で食べさせている患者で,むせがあるにもかかわらず,短時間(30分以内)で食べ終わる患者が最も多く,28名中10名(35.7%)であった.

    在宅において嚥下障害のある患者を見て行く際,患者の障害だけでなく,加齢も考慮して行くことが必要と考えられた.肺炎を予防するために,むせを減らすことが必要で,その方法の1つとして,食事時の座位レベルを下げ姿勢を安定させる,患者のペースに合わせて介助することなどが考えられた.

  • 鎌倉 やよい, 深田 順子, 杉本 助男
    2000 年 4 巻 2 号 p. 38-46
    発行日: 2000/12/30
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    本研究は嚥下時の呼吸型および嚥下性無呼吸の持続時間に飲水の量と温度が与える影響を明らかにすることが目的である.被験者は研究参加の同意が得られた学生15人(男4人,女11人,年齢20.4±3.1歳)であった.被験者1人について,5℃/10ml,5℃/20ml,25℃/10ml,25℃/20ml,50℃/10ml,50℃/20mlの条件の水を各10回,合計60回を嚥下させた.嚥下時の呼吸軌跡と舌骨上筋群の表面筋電図を同時に測定した.

    まず,嚥下時の呼吸型を分類し,各条件下での単独嚥下(1回の喉頭運動で呼吸が回復する型)とeae型(呼気‐嚥下性無呼吸‐呼気を示す型)の発現率,eae型における嚥下性無呼吸持続時間を求めた.量と温度の影響を確認するために,二元配置分散分析を用いた.さらに,各呼吸型の発現率への量の影響を確認するために,母比率の差の検定を用いた.

    その結果,単独嚥下の発現率は量と温度の交互作用はみられず,量のみに有意差を認め(p<0.01),20ml量において発現率が減少した.eae型の発現率についても同様であった(p<0.05).各呼吸型の発現率は,iae型(吸気‐嚥下性無呼吸‐呼気を示す型)が20mlにおいて有意に増加した(p<0.05).次に,eae型の嚥下性無呼吸持続時間も量と温度の交互作用はみられず,量のみに有意差を認め,20mlにおいて有意に延長した(p<0.05).

    以上から,嚥下時の呼吸型の発現率,嚥下性無呼吸持続時間は飲水の量によって影響されたが,温度には影響されなかった.10mlから20mlに増加した量を嚥下するために,呼吸型の発現率を変化させ,嚥下性無呼吸持続時間を延長して呼吸と協調していることが示唆された.

臨床報告
  • 松澤 直子, 宮城 敦, 西山 和彦, 土橋 千晶, 鈴木 茂, 田辺 春康, 湖城 秀久, 上地 智博
    2000 年 4 巻 2 号 p. 47-54
    発行日: 2000/12/30
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    発達期障害者の摂食状況と介助者の摂食に対する意識調査との関連を知る目的で,22施設に入所または通所する利用者100名と在宅者17名について,施設職員,家族などにアンケートを行った.調査内容は,障害分類,粗大運動程度,食環境,摂食機能,回答者の意識などである.これらの調査より以下の結果が得られた.

    1)全身状態が安定しており,粗大運動が良好で,姿勢の保持が可能な者が多かった.これは,今回の調査が発達期障害者の中で通常の歯科治療が困難な,全身麻酔下歯科治療経験者を対象としていたことが関係すると考えられた.

    2)食物形態は,常食をスプーンで食べる者が半数,次いできざみ食が多かった.きざみ食は大きさの対応で,必ずしも処理しやすいとは言えない.「咀嚼が十分可能」が19%,「口腔内貯留」31%,「摂食中のむせ」が約半数にみられたことからも形態改善の必要性が示唆された.

    3)何らかの食事介助を必要とする者が約半数みられた.入所施設での食事介助は,施設職員の拘束時間が長く,負担も大きいと言える.しかし,「下手だが心配していない」と回答したものが約半数を占め,重度障害者の摂食に関する認識は高いとは言えなかった.また,19%が「食べ方に不安がある」と回答し,その内容は誤嚥と関連する内容の他,「舌の上に食べ物を入れにくい」といった誤った介助方法もみられ,改善が望まれた.

    4)今回の結果から機能に適していない食物形態や摂食姿勢,誤った介助方法が確認され,摂食状況が良好でないのにも関わらず,介助者の摂食に関する意識は十分とは言えなかった.今後これをふまえ,危険や苦痛のない,安全で楽しい食事時間の確保のために,施設職員や家族への摂食機能の正しい理解,知識向上を図るとともに患者指導を働きかける必要性が示唆された.

  • 植田 耕一郎, 野村 修一, 田沢 貴弘, 紋谷 光徳, 山田 好秋
    2000 年 4 巻 2 号 p. 55-63
    発行日: 2000/12/30
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    新潟大学歯学部附属病院では,平成11年4月から9月までの準備期間を経て,同年10月に摂食・嚥下リハビリテーション外来/入院を開設した.今回は,当歯学部附属病院に専門外来を設置し,摂食・嚥下障害に取り組む意義を明確にする目的で対象患者の実態を把握し,今後の課題と可能性について検討した.対象患者は,平成11年4月1日から同年12月31日までに当学部附属病院にて摂食・嚥下リハビリテーションを施行した40名(男性21名,女性19名),年齢は最年小が2歳6カ月,最高齢が94歳であり,内訳は機能的障害が26名,器質的障害が14名であった.疾患別では,口腔癌術後14名,脳卒中8名,痴呆8名,パーキンソン病3名,重症筋無力症3名,その他4名であった.全身疾患発症から6カ月以上を経過した疾患の維持期で,準備期障害の患者が最も多く,食事への関心は状態が安定してから改めて浮き彫りになると推察された.40名中,経管あるいは点滴管理であった患者は26名であったが,そのうち20名が摂食・喋下リハビリテーション介入後経管離脱,あるいは経口摂取併用となった.また,摂食・嚥下リハビリテーションを遂行するにあたって必要最小限の全身的リハビリテーション手技の確立,設備の確保,マンパワーの供給など課題が多く残った.これらのことから歯学部附属病院にて摂食・嚥下リハビリテーションの専門外来を設置することは,課題は山積されているものの,意義のあることと思われた.

  • 有嶋 拓郎, 太田 清人, 田中 靖代
    2000 年 4 巻 2 号 p. 64-68
    発行日: 2000/12/30
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    ハローベスト装着による摂食・嚥下障害の報告は比較的まれである.今回我々はハローベストによる頭頚部の固定が持続的な摂食・嚥下に悪影響を及ぼしたと思われる外傷性頚髄損傷の1例を経験したので報告する.

    患者は交通事故にて第6頚椎の脱臼骨折を受傷し,第4病日にハローベストが装着され,第11病日頚椎前方固定術が施行された.術後もハローベストにより頭頸部は固定された.術前のハローベスト装着後より段階的摂食訓練が行われたが嚥下困難は術前後を通して持続した.患者は術後も嗄声はなく,第29病日施行したVideofluorography(以下VF)でも喉頭の挙上や梨状陥凹の造影剤の貯留に左右差を認めず手術操作による嚥下障害は否定的であった.頚部の伸展を緩和するようにハローベストの固定角度を変更したところ嚥下障害が比較的速やかに消失した.

    自験例の補正角度は15°であったがこのようなわずかな伸展の緩和だけでも摂食・嚥下機能に重大な影響を及ぼす症例があることは特筆すべきことと思われる.ハローベスト装着時の摂食・嚥下障害の原因のひとつとして頚椎の過伸展もあることに留意する必要があると思われる.

  • ―顎位の安定性,RSST,フードテストと日常の食形態との関連について―
    田村 文誉, 水上 美樹, 小沢 章, 秋山 賢一, 菊地原 英世, 曾山 嗣仁, 花形 哲夫, 武井 啓一, 依田 竹雄, 保坂 敏男, ...
    2000 年 4 巻 2 号 p. 69-77
    発行日: 2000/12/30
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    口腔の器質的・機能的状態と食形態との関連を明らかにし,適正な食形態決定の指標を確立することを目的として,県内某老人保健施設の入所者69名を対象に,歯科医師・歯科衛生士が口腔内診査,嚥下機能検査,摂食場面の評価を行った.その結果,以下の知見を得た.

    1)主食,副菜のどちらにおいても,食形態が普通食からペースト食になるに従い,安定した顎位のとれない者の割合が多くなるのが見受けられた.

    2)主食とRSSTとの関連に:おいて,常食摂取者26名中11名(42.3%),全粥摂取者17名中12名(70.6%)は,30秒間の嚥下回数が3回未満であった.両者の間に統計学的有意差は認められないものの,常食の方が3回未満の者が少ない傾向であった.

    3)主食,副菜のどちらにおいても,食形態がペースト食に近づくことと,テストフードの残留との間に関連はみられなかった.

    以上の結果から,要介護者の食形態選択に際しては,嚥下反射そのものに対する配慮はなされていても,その前段階である,嚥下に至るまでの口腔内の処理に関しては,適正に判断されていなかったものと推察された.

    要介護者に対して今回の評価項目を用いることは,適切な食形態の食事を提供するために有効であるものと考えられた.

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