2000 年 4 巻 2 号 p. 64-68
ハローベスト装着による摂食・嚥下障害の報告は比較的まれである.今回我々はハローベストによる頭頚部の固定が持続的な摂食・嚥下に悪影響を及ぼしたと思われる外傷性頚髄損傷の1例を経験したので報告する.
患者は交通事故にて第6頚椎の脱臼骨折を受傷し,第4病日にハローベストが装着され,第11病日頚椎前方固定術が施行された.術後もハローベストにより頭頸部は固定された.術前のハローベスト装着後より段階的摂食訓練が行われたが嚥下困難は術前後を通して持続した.患者は術後も嗄声はなく,第29病日施行したVideofluorography(以下VF)でも喉頭の挙上や梨状陥凹の造影剤の貯留に左右差を認めず手術操作による嚥下障害は否定的であった.頚部の伸展を緩和するようにハローベストの固定角度を変更したところ嚥下障害が比較的速やかに消失した.
自験例の補正角度は15°であったがこのようなわずかな伸展の緩和だけでも摂食・嚥下機能に重大な影響を及ぼす症例があることは特筆すべきことと思われる.ハローベスト装着時の摂食・嚥下障害の原因のひとつとして頚椎の過伸展もあることに留意する必要があると思われる.