日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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臨床報告
食事摂取量の変動が大きかった一症例
鈴木 正浩
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2002 年 6 巻 2 号 p. 218-224

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抄録

食事摂取量の変動が大きかった一症例を経験した.今回本例の食事摂取量の追跡を3か月間行ない,その食事摂取量にみられた変動の要因として食事の介助方法に着目し,介助方法の違いによって摂取量に影響が生じうるのかを検討した.[症例]74歳女性.入院時,嚥下障害 (才藤分類にて4/7:機会誤嚥),左半側空間無視,発動性低下,モリアなどが見られた.入院当初は経口摂取していたが,状態悪化に伴い約1か月間絶飲食となった.その後経口摂取再開となるも,食事時の絞扼反射亢進やoral dyskinesia等が出現し摂取量の変動が著明となった.[方法]摂取量の比較は昼食を対象とした.本例の介助はSTが週4回,病棟職員が週3回実施.摂取量測定は担当看護師が主・副食別に目測法 (上限10割) にて行ない,両者を合計した値を摂取量とした (10口で約1割を目安とした).病棟職員は体位と一口量に留意した介助が中心 (工夫なし) で,ST介助ではこれに加えて①臼後三角部刺激による開口介助,②スプーン挿入を浅くして絞扼反射の惹起を防止,③口唇での捕食を毎回促し健側より引抜くなどの工夫を加えた (工夫あり).[結果]本例の平均摂取量は工夫あり時に有意な増加を示していた.また工夫あり時では,2~3か月目にかけて摂取量の安定化傾向が認められた.[考察]食事摂取量の追跡は有意義であった。そして上記のような「工夫」は本例にとって有効であったと思われる.今回の結果は介助方法の違いが摂取量に影響しうることを示唆している.つまり,食事介助上の工夫を患者の症状に応じて個別に立案し実践していくことは,食事介助を治療的介入の一手段として捉えることであり重要である.またその実践に向けては,チームメンバーの食事介助への意識づけや技術の習得が必要であるとともに,この領域の更なるデータの蓄積が必要であるといえる.

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© 2002 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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