2003 年 7 巻 1 号 p. 47-52
本研究は,嚥下困難者用ゼリーとして市販されている4種(水分補給,カルシウム補給,エネルギー補給,鉄分補給)の食品が,嚥下障害者にとって機能的,官能的に適当なものであるかを知ることを目的に検討を行った.機械的特性評価の試料には,今回検討する4種類のゼリーの他に,同様の目的で市販されているゼリー5品を用いて,かたさ応力,凝集性,付着性,破断応力を測定した.官能評価は,20代から50代の健康成人27名と65歳以上の高齢者37名を対象に行った.この他,高齢者に対しては,嚥下機能に対するスクリーニング,聞き取り調査,口腔内診査を行い嚥下障害の有無により,非嚥下障害高齢者群21名と嚥下障害高齢者群22名に分けた.4種類のゼリーは他の市販ゼリーに比較して破断応力以外の物性において,比較的温度による影響は受けにくく安定していた.官能評価の結果においては,機能面に関する回答は,正に傾いたものの,カルシウム補給については,「飽きやすい」,「あと味が悪い」傾向にあった.主成分分析においては,水分補給ゼリー,鉄補給ゼリー,エネルギー補給ゼリーは,咽頭通過の容易さや舌触りの良さなどテクスチャーに関する要素を満たしていた.また,カルシウム補給は,嚥下のしゃすさや残留感はあるものの,あと味の悪さと嚥下には時問を要する要素を持つものであった.これらの結果より,カルシウム補給ゼリーは,今後味の検討を行う必要性があるものの,今回の試料は,嚥下障害を有する高齢者に対しても比較的安全に口腔内の処理から嚥下に至るまでの過程を援助しうるものであることがうかがえた.