2011 年 31 巻 3 号 p. 318-324
現在,薬物の心毒性を検証するための主要な計測手法は,常に偽陰性(false negative)の危険性を内在している.ヒト幹細胞からヒト心筋細胞の再生が可能になったため,再生された心筋細胞をチップ上に1細胞単位で構成的に配置して,ヒト臓器・組織の応答により近いin vitro細胞ネットワークモデルを構築することが可能になった.そのモデルを使用し,(1)細胞のK+イオンチャネルの応答のゆらぎ解析による安定性変化の定量化(時間的観点),(2)心筋細胞ネットワークにおける伝導状態のゆらぎ解析による伝導異常の定量化(空間的観点)のふたつの観点から,心筋細胞間の興奮伝導の異常発生を定量的に観測できる心毒性検査法を検討した.その結果, in vitro系であっても偽陰性の薬剤を「ゆらぎ」から効果的に識別できることを確認した.細胞間の興奮収縮の伝導異常である致死性不整脈の発生を計測するには,従来の細胞計測に加えて,細胞間の相互作用を理解するための細胞ネットワークの階層という,新しいin vitroプラットホームが重要であると考えられる.