環境感染
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介護老人保健施設における咽頭ぬぐい液からのMRSA検出率の7年間の年次推移
山本 章稲田 しづ子中川 益枝萩原 栄子松本 直美黒川 芳恵塩谷 あけみ
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2006 年 21 巻 4 号 p. 247-253

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抄録

公立の介護老人施設において1999年から7年間にわたり, 原則入所者全員を対象として毎年春1回と, そのときの陽性者並びにそれ以降の新入所者を対象として秋に追加で1回, 咽頭ぬぐい液を採取してメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の培養検査を行ってきた. MRSAと感受性菌 (MSSA) を含めた全黄色ブドウ球菌の検出率は各年度毎の値の平均で38.2±11.8 (16.3~59.5) %, MRSAのそれは11.1±4.0 (5.0~16.3) %であり, 黄色ブドウ球菌全体に占めるMRSAの比率は7年間を通しての値で28.9%であった.経年的にみて増加あるいは減少の一定した傾向は見られなかった. 自宅から, あるいは他の介護施設を通して受け入れた入所者におけるMRSA検出率はそれぞれ4.2±4.8%ならびに6.7±1.9%と低かったのに対して, 病院から受け入れた入所者における検出率は年により10.5~30.8 (平均22.9±7.1) %と高い値を示した. 当施設で複数回検査する機会のあった90例のうち, MRSA培養陰性から陽性に転じた者は76例中12例 (15.8%) で, 殆どすべては過去1年間に嚥下障害, 肺炎その他の感染を併発し, あるいは骨折を機に入院して抗菌薬の投与を受けていた. 逆に数年の経過中に陽性から陰性に転じたものは14例中12例 (85.7%) であった.初回検査で陽性であったこれら入所者のすべては病院への入院歴があった.
以上の結果から, 当施設では経年的にMRSAの分離率はほぼ一定であり, 増加傾向はみられなかった. 複数回培養された症例のうち, 施設や家庭を行き来している内に (入院歴なしで) 新たに陽性となった入所者は2例のみで, それぞれ副鼻腔炎, 下肢の蜂窩炎織によると思われる発熱に対して抗菌薬治療を受けていた.

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