1988 年 3 巻 2 号 p. 29-34
近年のMRSA感染症の多発には院内感染の関与が推定され, 予防には病棟内の汚染状況を把握することが重要と考えられる. この主旨に基づき, MRSA感染症が頻発した老人病棟で, 空中浮遊菌測定を含めた病棟の環境調査と職員等の鼻腔培養を行った成績を報告する. MRSA感染患者の体表および周囲環境の拭き取り検査では, 感染部位から離れた部位からも菌が検出され, 寝具, 床等にも汚染が認められた. 吸引, オムツ交換等の介護後の看護婦の手指には例外なくMRSAの付着が認められた. エアーサンプラーを用いて空中の菌浮遊を検討すると, 静穏時にはMRSAはほとんど認められないが, シーツ交換作業中には総細菌数の増加と共に, MRSAも0.1 cfu/l程度検出された. 鼻腔前庭の培養では, MRSA非感染患者12名中2名, 医療従事者12名中1名からMRSAが検出された. これらの結果から, MRSA感染患者が在室する病棟では広範囲に汚染が存在すること, 病棟作業による空中への菌浮遊, 不顕性感染者の存在もあり得ることが示された. 後二者の感染径路としての意義は不明であるが, MRSAの蔓延を阻止するためには, 適切な抗菌薬の使用と共に, これらの状況を考慮した病棟作業全般に及ぶ見直しが急務と考えられた.