2025 年 2025 巻 1 号 p. 44-51
本稿は,日本の教育現場で混同されがちな「自立」と「自律」という概念を批判的に検討し,それらを弁証法的に統合した新たな教育概念「じりつ(JIRITSU)」を提案する.筆者の教育実践における違和感や葛藤を出発点に,理論と実践の往還から「じりつ」の可能性を探る.近代教育で称賛されてきた「自律」は,内面化された規範への従属にすぎない場合もあり,学校文化の中で「従順さ」や「模範性」と結びついて再生産されている現状がある.また,「自立」と「自律」がともに“じりつ”と読まれる日本語の特性も,意味の混乱を助長している.自己決定理論や社会構成主義の知見を参照しながら,「支援されながら選び取る力」や「関係性の中で育まれる主体性」に注目し,「自立」と「自律」の対立を超えた統合概念としての「じりつ(JIRITSU)」を提示し,教育実践の新たな方向性を示すものである.