日本食品工学会誌
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レトルト殺菌におけるATS法 (雰囲気温度スライド法) の検証
向井 勇酒井 昇
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2008 年 9 巻 3 号 p. 167-179

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抄録

先の報告 [1] では, レトルト殺菌における食品温度履歴を推定するのに, 合理的な方法として雰囲気温度スライド法 (ATS法) を提唱した.今回は従来法の1つである熱伝導方程式の数値解法 (一次元有限差分法 (OFD法) ) を実践的に使えるように改善した「簡易差分法 (s-OFD法) 」を取り上げ, ATS法と具体的に比較検証をすることで新しい知見を得ることを目的とした.
実験の結果, 従来, 一次元有限差分法で考えられていたよりも外側境膜伝熱係数hの値がたいへん小さく, つまり表面伝熱抵抗が無視できないほど大きく, それが正確な標品の中心温度履歴の推定に障害となっていたと考えられた.パラメータフィッティングした結果を収斂精度でみるとATS法は簡易差分法よりも2倍以上良くなっており, それは伝導伝熱品だけでなく, 対流伝熱品についても同様であった.また, パラメータフィッティングにより求めたパラメータを用いて中心温度をシミュレーションした4品において, F値誤差をみると簡易元差分法のほぼ1/5と小さいことがわかった.すなわち, これはATS法の精度は簡易差分法の5倍以上であることを意味する.伝導伝熱品についてATS法では熱拡散係数比がほぼ1になっていることから, パラメータτの机上計算への道が一部分ではあるが開けたといえる.
これらの結果から, ATS法は, 従来法の1つ, 1次元有限差分法の改良型ともいえる「簡易差分法」に比べても格段に優れた食品温度履歴の推定が可能であると考えられた.

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