日本食品工学会誌
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9 巻, 3 号
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  • 熊谷 仁
    2008 年 9 巻 3 号 p. 123-134
    発行日: 2008/09/15
    公開日: 2010/06/08
    ジャーナル フリー
    食品の内部の構造や状態を反映する電気物性および誘電緩和について概説した.物体の電気的な特性としては, 大きく分けて電気 (電荷) を蓄える性質と電気を流す性質があるが, 電気を蓄える“能力”を表すのが誘電率ε', 電気の通り易さを表すのが電気伝導度σ'である.また, 解析の便のために誘電損失ε” (=σ'/ (2πfe0) : e0, 真空の誘電率; f, 周波数) を用いることも多い.
    電気物性の測定において, 試料に交流電場を印加すると, 周波数fの増加に伴って内部の電気双極子が電場の変化に追随できなるため, 誘電率ε'が低下し, 同時に電気伝導度σ'が増加, 誘電損失ε”がピークを示すことがあるが, この現象が誘電緩和である.誘電緩和のデータをCole-Cole式やCole-Davidson式などの半経験式を用いて解析することにより, 電気双極子の配向時間に相当する緩和時間τをはじめとする重要なパラメータが求められる.
    対象とする系, 測定周波数によって, さまざまな種類の電気双極子の配向に起因する誘電緩和が観測され, 系の内部構造や状態に関する様々な情報が得られる.例えば103~107Hz近辺で観測される緩和は, 球状タンパク質であるBSA溶液では分子回転による配向分極に, ゼラチン溶液では分子鎖の揺らぎに, 高分子電解質溶液では対イオンの揺らぎに, W/Oエマルションでは水一油界面での界面分極に起因する.誘電緩和データから, 系の構造についての詳細な情報を得るには, スケーリング則などの理論を併用することが有効である.
  • 洪 蘭心, 木村 幸敬, 安達 修二
    2008 年 9 巻 3 号 p. 135-141
    発行日: 2008/09/15
    公開日: 2010/06/08
    ジャーナル フリー
    食品成分の変質は一般に好ましくない現象であり, 品質劣化の一因となる.品質劣化の合理的な抑制法の開発には, 質的な変化に関する化学的な解明とともに, 速度論的な知見も必要である.そこで著者らは, 酸化防止剤などとして各種食品に広く使用され, 劣化しやすいことが知られているL-アスコルビン酸 (ビタミンC) の粉末状態での分解と着色について速度論的な検討を行っている.
    まず, 種々の含水率に調整したL-アスコルビン酸粉末の60~90℃における分解および着色過程を測定した [4] .いずれの含水率および温度でも分解過程は一次反応速度式で表現できたが, 着色過程は1次速度式が適用できず, 含水率と温度に依存して異なる最大着色度に漸近するように修正したWeibull式で表現した.また, 各過程に対する速度定数の温度依存性はいずれの含水率においてもArrhenius式で整理できた.なお, 保存温度が高く試料の含水率が高いほど最大着色度が大きかった.
    次に, L-アスコルビン酸の疎水性誘導体である6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸の消失および着色過程に及ぼす含水率と温度の影響を検討した [8] .消失過程は形状係数が約0.8の単純なWeibull式で表現でき, 着色過程はL-アスコルビン酸と同様に, 含水率と温度に依存して異なる最大着色度に漸近するように修正したWeibull式で表現できた.また, 消失および着色過程に対する速度定数の温度依存性はいずれもArrhenius式で整理できた.さらに, 同じモル比の水を含むL-アスコルビン酸と6-O-パルミトイルーL-アスコルビン酸の着色過程の比較から, 疎水性のパルミトイル基の導入はL-アスコルビン酸の着色を抑制することを示した.
    そこで本研究では, L-アスコルビン酸に親水性のグルコース残基を付加したL-アスコルビン酸2-グルコシドの消失および着色過程に対する含水率と温度の影響を検討した.L-アスコルビン酸2-グルコシドの消失過程も単純なWeibull式で表現でき, 速度定数kdと形状係数ndはいずれも保存温度が高いほど, また含水率が高いほど大きかった.L-アスコルビン酸2-グルコシドは, L-アスコルビン酸とグルコースに加水分解されたのち, レアスコルビン酸が他の物質に変化する逐次過程を考え, 各過程が1次反応速度式に従うと仮定して, L-アスコルビン酸量の経時変化を解析した.L-アスコルビン酸2-グルコシドの加水分解過程の速度定数klとレアスコルビン酸2-グルコシドの消失過程の速度定数kdの比較から, レアスコルビン酸2-グルコシドの消失はすべてが上述の逐次的な過程を経るのではなく, L-アスコルビン酸2-グルコシド自体の分解などにより消失する過程も並列的に進行することを示唆した.
    L-アスコルビン酸2-グルコシドの500nmにおける吸光度の変化は, レアスコルビン酸および6-O-パルミトイルーレアスコルビン酸と同様に, 最大吸光度Amaxに漸近するように修正したWeibull式で表現できた.Amaxは含水率が高いほど大きく, 保存温度による影響は顕著ではなかった.また, 形状係数ncも温度に依存せずほぼ2.0±0.5であった.速度定数kcは高温ほど大きく, また含水率が高い試料ほど小さかった.
    L-アスコルビン酸, 6-O-パルミトイルーL-アスコルビン酸およびL-アスコルビン酸2-グルコシドについて, モル基準で同程度の水 (モル比0.92~1.13) を添加した試料の70℃における着色過程を比較した.レアスコルビン酸2-グルコシドの着色過程はL-アスコルビン酸より遅く, 6-O-パルミトイルーL-アスコルビン酸より速かった.したがって, L-アスコルビン酸へのグルコース残基の導入は着色を抑制するが, その効果はパルミトイル基のそれより弱いことが示された.その理由として, L-アスコルビン酸2-グルコシドが親水的で加水分解されやすく, 生成したレアスコルビン酸が着色しやすいことが考えられる.
  • 上野 茂昭, 安齋 真由美, 重松 亨, 藤井 智幸
    2008 年 9 巻 3 号 p. 143-150
    発行日: 2008/09/15
    公開日: 2010/06/08
    ジャーナル フリー
    The partial decomposition reaction of starch in hot-compressed water was studied using a tubular reactor at 160-210°C and 25-45 MPa. The increase rate of reducing sugar concentrations at short residence times was considered as initial reaction rate of partial decomposition. The kinetic analysis of the initial reaction rate indicated that the reaction mechanism over 190°C was different from that below 180°C . The reaction mechanism over 190°C could be expressed by bimolecular reaction between starch and ionized water. The activation energies for starch partial decomposition were about 120 kJ/mol, which was almost the same as the activation energies of maltose and isomaltose hydrolysis. The activation volumes were equivalent to the volume of a few water molecules, suggesting that the reaction proceeded like the gas phase reactions. In contrast, the reaction mechanism below 180°C could be expressed by multimolecular reaction. The activation volumes were significantly larger than those over 190°C . The large activation volume below 180°C suggested that the reaction proceeded, like the liquid phase reactions, with solvent effect between starch and multiple water molecules.
  • 小川 幸春, 田口 聡, 山本 奈美, 田川 彰男
    2008 年 9 巻 3 号 p. 151-156
    発行日: 2008/09/15
    公開日: 2010/06/08
    ジャーナル フリー
    研究室規模の納豆作製工程におけるダイズ粒の顕微構造的な変化を調査した.その結果, 蒸煮工程でダイズ粒の硬さが低下するとともに組織の自家蛍光状態も顕著に変化している様子が観察された.しかし, SEMによって観察される微細構造には明確な変化が見られなかった.これらのことから, 蒸煮工程でダイズ組織から溶出する成分はペクチン質などの非結晶性マトリックス成分であり, それらが粒の硬さや組織の自家蛍光強度に関与していると考えられた.発酵および熟成の各工程では, プロテアーゼによるダイズタンパク質の分解が原因と考えられる細胞内部構造体の縮小が観察された.それら縮小によって生じた空隙が, わずかではあるが粒の硬さ低下に影響を及ぼすと考えられた.以上より, 蒸煮や発酵などの工程におけるダイズ粒の物性変化の一因が組織構造的な観点から明らかとなった.
  • 佐久間 欣也, 河東田 治彦, 深谷 哲也, 城斗 志夫, 伊東 章, 渡辺 敦夫
    2008 年 9 巻 3 号 p. 157-165
    発行日: 2008/09/15
    公開日: 2010/06/08
    ジャーナル フリー
    微生物的変質がなく, 食味がよい, より高品質な準無菌包装米飯 (cooked rice packed under semi-aseptic condition) の製造を目的に多くの技術開発が進められてきた.今回, レトルト食品の商業的無菌性の考え方に基づき, pHを調整した準無菌包装米飯において, 微生物に関わる保蔵安定性をより向上させることを目的に, 準無菌米飯の商業的無菌性に及ぼす米由来の耐熱性菌の影響を調べ, 製造方法の改良を検討した.
    pH4.6およびpH5.0の米飯中において, 前報 [1] で玄米より分離したB. subtilisの発育は抑制されず米飯は変敗した.このことにより, 保蔵安定性を向上させるためには, 分離菌株を殺滅することが必要であることがわかった.そこで, 米飯のpHを調整した場合の保蔵安定性を向上させるための炊飯操作について検討した.
    前報 [1] で玄米より分離したB.subtilisの耐熱性は, pH4.6においてD98℃=2.4分, z=8.5℃, pH5.0においてD98℃=15.4分, z=10.1℃で, これより従来の炊飯による殺菌加熱時間は, pH4.6においてFp=2.08~6.25D98℃, pH5.0においてFp=0.32~0.97D98℃と推算された.
    前報 [1] で準無菌包装米飯の商業的無菌性を達成するための必要殺菌加熱時間F [分] はF=2Diと推算されたことから, pH4.6における従来の製造工程の炊飯において, 上記の商業的無菌性を確保するための必要殺菌加熱時間を満たしていた.一方, pH5.0においてその必要殺菌加熱時間を満たしていなかった.
    そこで, pH5.0の米飯における商業的無菌性を達成するための炊飯操作を検討した.その結果, 105℃で10~16分間, 110℃で7~11分間の炊飯では米飯の食味において問題を生じないことがわかった.
    また, 前報 [1] で玄米より分離したB. subtilisの耐熱性はpH5.0においてD121.1℃=0.08分で, これより商業的無菌性を達成するための必要殺菌加熱時間はF=2D121.1℃=0.16分相当以上と推算され, F0=0.16分を達成するには, 105℃で14分間以上, 110℃で9分間以上の炊飯が必要であることがわかった.
    本研究の結果より, 準無菌包装米飯において保蔵安定性を向上しかつ従来と同等の食味を有した高品質の製造工程として, 米飯をpH5.0に調整し, かつ炊飯において105℃で14~16分間 (F0=0.18~0.27分) および110℃で9~11分間 (F0=0.18~0.36分) とする製造工程および加熱殺菌操作を提案する.
    また, 従来の炊飯条件とされる98~100℃で15~20分間の炊飯において, 米飯をpH4.6に調整する製造工程を提案する.
  • 向井 勇, 酒井 昇
    2008 年 9 巻 3 号 p. 167-179
    発行日: 2008/09/15
    公開日: 2010/06/08
    ジャーナル フリー
    先の報告 [1] では, レトルト殺菌における食品温度履歴を推定するのに, 合理的な方法として雰囲気温度スライド法 (ATS法) を提唱した.今回は従来法の1つである熱伝導方程式の数値解法 (一次元有限差分法 (OFD法) ) を実践的に使えるように改善した「簡易差分法 (s-OFD法) 」を取り上げ, ATS法と具体的に比較検証をすることで新しい知見を得ることを目的とした.
    実験の結果, 従来, 一次元有限差分法で考えられていたよりも外側境膜伝熱係数hの値がたいへん小さく, つまり表面伝熱抵抗が無視できないほど大きく, それが正確な標品の中心温度履歴の推定に障害となっていたと考えられた.パラメータフィッティングした結果を収斂精度でみるとATS法は簡易差分法よりも2倍以上良くなっており, それは伝導伝熱品だけでなく, 対流伝熱品についても同様であった.また, パラメータフィッティングにより求めたパラメータを用いて中心温度をシミュレーションした4品において, F値誤差をみると簡易元差分法のほぼ1/5と小さいことがわかった.すなわち, これはATS法の精度は簡易差分法の5倍以上であることを意味する.伝導伝熱品についてATS法では熱拡散係数比がほぼ1になっていることから, パラメータτの机上計算への道が一部分ではあるが開けたといえる.
    これらの結果から, ATS法は, 従来法の1つ, 1次元有限差分法の改良型ともいえる「簡易差分法」に比べても格段に優れた食品温度履歴の推定が可能であると考えられた.
  • 堤 隆一
    2008 年 9 巻 3 号 p. 181-182
    発行日: 2008/09/15
    公開日: 2010/06/08
    ジャーナル フリー
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