2017 年 81 巻 3 号 p. 211-221
2007–2008年の観測データから,東京湾の盤洲干潟沖へ貧酸素水塊が分布する現象は,2つのパターンに類別されることを明らかにした.その一つは,南偏風が連吹するときに外海から冷たく重い海水が浸入するときに発生し,それまで湾中央部の底層に分布していた貧酸素水塊が同域で中層へ分布深度が変わるとともに,盤洲干潟沖へも移動した.このとき盤洲干潟沖では,貧酸素水塊がごく浅い水深にまで及ぶため,これが干潟へ波及する危険性が高まった.もう一つは,北偏風が数日以上吹き続く時に,湾中央部の底層に分布していた貧酸素水塊が盤洲干潟沖へ移動する現象であった.この時,盤洲干潟沖では貧酸素水塊はごく底層にのみ分布するので,干潟の貝類に影響を与える可能性は低い.しかし,同海域にはトリガイ等有用生物が生息しており,これらの漁場形成には影響を与えると考えられた.