抄録
本研究は初心者と熟練者のトラクタ操作技能に関する基礎的データを求め,初心者教育や作業安全に役立てる目的で始めたものである.本論文では,乗用型トラクタによるプラウ耕うん作業における運転者の生理的負担,作業精度および動作時間の測定データを用いて,トラクタ操作の習熟過程を人間工学的視点で考察した.なお,本報では被験者を熟練者,普通自動車免許所有の初心者(免許所有初心者),普通自動車免許無しの初心者(無免許初心者)に3区分し比較・検討した.
プラウ耕うんのトラクタ操作において,生理的負担(心拍数増加率,RMR)は初心者と熟練者間で総体的な差異が認められなかった.ただし,無免許初心者の場合,実験回数3回まで心拍数増加率が他の被験者に比べ明らかに高い値を示した.
作業誤差(直進性偏差,耕うん開始・終了位置誤差)は,無免許初心者が最も大きく次いで免許所有初心者,熟練者の順であり,これらの三者間に大きな差異が認められた.初心者の場合,普通自動車の運転経験が耕うん作業のトラクタ操作に役立っていることが検証された.また,前記の3種類の作業誤差値と作業回数の関係より,プラウ耕うん作業においてトラクタの直進性を向上させることが初心者にとって最も困難であることが分かった.初心者が直進性偏差で熟練者レベルに達するには65~68時間を要すると推察される.また,プラウ耕うん作業の生理的負担と作業誤差の諸測定結果より,初心者の習熟過程は2段階に分けうると判断された.そして場合によっては,第2段階(免許所有初心者 : 約3時間以降,無免許初心者 : 約43時間以降)の練習は,自習でもよいと考察される.
トラクタの旋回所要時間では,3区分の被験者間で前記の作業誤差と同様に明確な相違が認められた.免許無しの初心者が当然最も長い旋回時間であるが,その主な原因はギヤーチェンジやプラウ反転操作を含む後退時にあった.