情報通信学会誌
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論文
監視型情報収集の脅威に対する結社の自由とプライバシー
─米国法上の議論を手がかりとして─
海野 敦史
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2020 年 38 巻 1 号 p. 1-12

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抄録
近年の監視型情報収集の発展に伴い、憲法上、結社のプライバシーを保護する意義が増しているが、その保護のあり方をめぐる解釈論の蓄積は些少である。学説上、憲法21 条1 項に基づく結社の自由の一環として結社のプライバシーも保護され得るとされてきたが、その保護の程度は明確にされていない。この点に関し、米国法上の関連する議論を参照しつつ考えると、憲法21 条1 項に基づき結社のプライバシーが保護されるのは、結社の結成や意思形成等に対する不当な妨害の防御に必要と認められる範囲内においてであり、かかる観点から、構成員の名簿の強制的な提出等は正当な理由が認められない限り禁止される。ところが、インターネット経由で容易にアクセス可能であるオープンな情報の集積・解析は、プライバシーに対する脅威となるものではあっても、必ずしもかかる「不当な妨害」には該当せず、憲法21 条1 項に基づく保護を受けない可能 性が高い。他方、憲法35 条1 項に基づく「私的領域に侵入されることのない権利」からは、結社としての団体自体の「私的領域」が保護されることにより、その活動の相当部分の把握に対する脅威も補完的に防御され得ると考えられる。なお、憲法13 条に基づき「自己情報コントロール権」が保障されるという通説的な考え方は、これが個人の人格的自律に根ざすものである限り、結社自体に対してそのまま援用され得るわけではないと考えられる。よって、結社のプライバシーは、憲法21 条1 項及び憲法35 条1 項により重層的に保護されると解することが妥当である。
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