抄録
政府開発援助による大規模灌漑開発実施の課題として開発経済性の低下等が指摘されているが, 農業開発全般の現状分析を中心とした報告が多く, 事業そのものが持つ課題を取り扱った報告は少ない.そこで, 大規模灌漑開発の1例であるフィリピンのパンパンガ・デルタ灌漑事業の計画, 設計, 計画再検証, 事業実施の段階毎の主要計画内容を詳細に分析し, 不明瞭な事業の必要性, 財務分析軽視の開発規模の決定, 度重なる計画設計変更, 経済分析による事業評価の不確実性等の課題を明らかにした. 灌漑開発の効率的実施には, 事業の必要性や目標達成度を現実的に判定し, 経済分析より財務分析を重視し, 被援助国の財政状況に柔軟に対応した事業実施制度を構築する必要がある.