抄録
細菌は、増殖の定常期状態やアミノ酸・糖などの栄養が枯渇した環境あるいは酸化的ストレスなどのストレス環境下では、緊縮応答 (stringent response) によってこれらの環境変化に適応し、生存を可能にする。緊縮応答時には、細胞内にguanosine-3,5-tetraphosphate(ppGpp)が蓄積し、これが種々の遺伝子の転写活性を調節する遺伝子発現 mediatorとして機能する。大腸菌において、ppGpp は RNA合成の抑制および定常期シグマ因子(RpoS)の細胞内蓄積を促進し、結果として細胞内の代謝やDNA合成を抑制する。大腸菌や Salmonellaでは、ppGpp は2つの遺伝子、relA および spoT にコードされる ppGpp 合成酵素により合成される。Salmonella のように宿主細胞内で増殖できる細胞内寄生細菌にとって、宿主細胞内環境は栄養分が制限されるだけでなく、生体防御反応による種々のストレスも加わり、生存に不利な環境条件であることから、緊縮応答は、細胞内環境に適応するために重要な応答機構として機能するものと予想される。本稿では、ネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)において、ppGpp により遺伝子発現調節される緊縮応答タンパク質をプロテオーム解析により網羅的に同定し、さらに、ppGppに発現制御される新規病原因子を同定したので紹介する。