2022 年 33 巻 3 号 p. 186-194
近年、腸内常在菌叢は「もう一つの臓器」とも呼ばれ始め、腸内常在菌の適切な制御により人類の健康寿命を延伸することが可能であると考えられている。しかし、腸内常在菌の遺伝子機能の半数以上はアノテーション不能であることから、現状では腸内環境の制御には多くの課題が存在する。
以上の問題を解決する目的で我々は、ヒト腸内常在菌叢最優勢 56 種のうち、入手可能な 44 種について容易に作成できる GAM 培地を用いて 32 種を培養可能である系を作製した。
次に、この培養系を用いてヒト腸内常在菌叢最優勢種の培養上清および菌体のポリアミンを定量し、ゲノム情報から予想される解析結果と比較したところ、ポリアミンの未知の代謝・輸送系が多数存在することが明らかとなった。また、GAM で培養可能なヒト腸内常在菌叢最優勢種のうち 5 菌種が多量のフェネチルアミンを産生することを見出し、このフェネチルアミンが宿主の末梢セロトニンの産生を促進することを明らかとした。
さらに、本システムを用いてヒト腸内常在菌叢最優勢種には資化されず、ビフィズス菌に特異的に資化される「次世代型プレバイオティクス」であるガラクトシル-β-1,4-ラムノース(GalRha)をスクリーニングしたしたほか、微細化した「おから」がヒト腸内常在菌叢最優勢種の生育および代謝産物産生能に及ぼす影響を解析し、Roseburia intestinalis による酪酸の産生がおからを培地中に添加することで向上することを報告した。