昭和医学会雑誌
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Hypovolemic shockにおける肺微小血管の変化
松本 享神田 実喜男
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1988 年 48 巻 1 号 p. 31-42

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抄録

1941年にDavisがhypovolemic shockに陥った患者で, 肺重量の増加, 毛細血管のうっ血, 肺胞内水腫および肺胞内出血を報告して以来, shock時の肺の様々な組織病理所見がshock lungの名の下に報告され, shockと重篤な呼吸不全の因果関係が提唱されるようになった.後に, shockのみならず, 種々の重篤な疾患が急性呼吸不全を誘発することが報告され, これをadult respiratory distress syndrome (ARDS) と命名した.しかし, いずれの範疇についても多くの病理所見が報告され, 両者の所見は大部分が重複し, いまだにその基本的なpathogenesisが解明されていない・Hypovolemic shockの患者の肺の組織病理所見を経時的に観察すると, 微小血管の変化がARDSの浸出期の変化に先行し, 浸出期以後まで生存した患者では血管内皮細胞の修復が見られた.さらに, われわれはhypovolemic shockを随伴した35例の患者と随伴しなかった16例の患者の肺の組織を盲検試験により検討し, shock lungまたはARDSに特徴的だと報告されている病理所見のscoreを記録した, 文献検索の結果, 血管外変化として, 肺胞内水腫, 硝子膜形成, 肺胞内出血, 2型上皮細胞の損傷および間質浮腫が挙げられ, 血管内所見として, うっ血, 微小血栓形成および血管内での白血球の停滞, 血管壁病変として, 内皮細胞の腫脹, 内皮細胞の脱落, 血管壁の浮腫および内膜と中膜の肥厚が挙げられる.これらの所見のすべてはhypovolemic shockを伴う患者と伴わない患者に観察された.しかし, これらの所見のscoreを統計学的に解析すると, shockを伴う患者で血管内皮細胞の腫脹 (0.01>P>0.005) と血管内皮細胞の脱落 (0.025>P>0.01) の平均scoreがshockを伴わない患者の平均scoreより有意に高値であった.血管壁の浮腫と間質の浮腫についての平均scoreはshockの患者でより高値を示したが, 統計学的に有意のものではなかった (0.1>P>0.05) .これらの結果より, shock lungまたはARDSに関して報告されている組織病理所見はいずれも特異的なものではないと示唆される.しかし, 微小血管の内皮細胞の損傷は浸出性変化と増殖性変化に先立ってhypovolemic shockの初期に出現する特徴的な所見で, shock lungの基本的な病変と考えられる.

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