昭和医学会雑誌
Online ISSN : 2185-0976
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48 巻, 1 号
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  • ―水圧衝撃モデル実験―
    谷野 正一郎, 大野 雅文, 加地 紀夫, 中谷 研一, 佐藤 韶矩, 吉田 文英
    1988 年 48 巻 1 号 p. 13-23
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    頭部外傷時にみられる心機能変化の発生機序についての研究は少ない.われわれは脳の圧迫外傷モデルを用い, 衝撃の強さと心機能変化について検討し, さらに各種薬剤を用いその発生機序について比較検討した.雑種成犬を用い, 麻酔後, 衝撃装置を右頭頂側頭部に装着し, 硬膜外に水圧衝撃を加え, 平均血圧 (mBP) , 大動脈血流量 (AF) , 左室内圧 (LVP) , maxLVdp/dt, 全末梢血管抵抗 (TPR) , 心電図を衝撃後30分まで観察した.コントロール群は2.5気圧以下のC1群8頭, 2.6気圧以上のC2群10頭に分け, さらにC2群と2.6気圧以上の薬剤群, すなわちatropine sulfate群 (AS群) 6頭, propranolol群 (proP群) 9頭, phenoxybenzamine群 (POB群) 6頭とについて比較検討した.C1群とC2群の比較では心拍数はともに衝撃直後より減少したが, 両群間に有意差はなかった.mBPとAFはC2群では衝撃後C1群に比較し有意に増加, LvP, max LVdp/dtはmBPと同様の変化を示した.不整脈はC1群では心室性期外収縮が, C2群では心室性期外収縮・頻拍が多く, さらにC1群ではみられなかった徐脈性不整脈が多かった.薬剤群では心拍数はAS群で衝撃直後より増加したが, 他の群では直後より減少した。mBPはAS群, prop群でC2群に比べ上昇の程度は有意に強かった.LvP, maxLvdp/dtはともにmBPと同様に変化した.AFはC2群に比べAS群, POB群で増加したが, prop群では有意の減少を示した.TPRはC2群に比べprop群で有意の上昇を, POB群では有意の低下を示した.不整脈はAS群では徐脈性不整脈を一例もみなかったが, 心室性期外収縮・頻拍はC2群同様多かった.prop群とPOB群では, 徐脈性不整脈は予防しきれなかったが, POB群では心室性期外収縮・頻拍は一例もなかった.クモ膜下山血は, 主に脳幹部にみられ, その出現率は低圧衝撃のC1群で最も低かった.また, C2群とprop群に各1例づつ, fatal concussionと思われる例を経験した.以上をまとめると, 1) AS群では他の群でみられた衝撃直後の徐脈性不整脈は予防できたが, 心室性期外収縮・頻拍は予防出来なかった.2) mBP, LVP, maxLVdp/dt, TPRはAS群, prop群で上昇が強く, POB群では軽度だった.3) 心室性期外収縮・頻拍は血圧の上昇につついてみられる例が多く, 血圧の上昇が軽度であったPOB群では認められなかった.以上より, 衝撃直後の心機能変化には脳幹部の衝撃による副交感神経系の興奮が, その後の変化には副交感・交感神経系両者の関与が考えられたが, 交感神経系の関与の方がより重要であると思われた.
  • ―血栓形成例の筋病変について
    鈴木 義夫, 真木 寿之, 佐藤 温, 塩田 純一, 大石 晴二郎, 杉田 幸二郎
    1988 年 48 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    実験的虚血性筋疾患のうち, 血栓形成例における筋病変の組織学的特徴を明らかにすることを目的として検討した.対象は成猫22匹.方法は腹部大動脈下端部および右大腿動脈鼠径部に血管閉鎖腔を作成し, 3日後に屠殺し, 下腿筋病変を組織学的に検討したが, 血栓形成例と非形成例では理学的および病理学的に明らかな差が認められ, 次のような結果を得た.1) 血栓形成例の理学的所見は運動麻痺, 足底チアノーゼなどが高度であり, 血栓形成部位により対麻痺, 単麻痺を呈し経過上から大きく二つに分類でき, 病理学的に血栓の範囲および筋病変と相関が認められた.一つは理学的所見がきわめて重篤で, 実験の翌日から屠殺時まで単相性に完全な弛緩性対麻痺を来し, 血栓は結紮部と結紮部以下のすべての動静脈に連続して認められ, ほぼ完全に側副血行路が遮断されたものである.筋病理は組織反応を欠く凝固壊死の所見を呈した.他の一つは経過が特有であり, 軽度の対麻痺または単麻痺が実験の翌日に認められ, その後経時的に進行性増悪を示したもので, 血栓は結紮部位に認めるほか, 下腿筋の小動脈に散在性の微小塞栓を認めた.筋病理は微小塞栓にもとつく小梗塞巣であった.2) 各下腿筋群における病変の程度は前下腿筋群の方が後下腿筋群に比べて高度であった.3) 血栓非形成例では明らかな運動麻痺を呈したものはなく, 筋病変は一例にのみphagocytosisを伴う散在性の壊死病変を認めた.
  • 松本 享, 神田 実喜男
    1988 年 48 巻 1 号 p. 31-42
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    1941年にDavisがhypovolemic shockに陥った患者で, 肺重量の増加, 毛細血管のうっ血, 肺胞内水腫および肺胞内出血を報告して以来, shock時の肺の様々な組織病理所見がshock lungの名の下に報告され, shockと重篤な呼吸不全の因果関係が提唱されるようになった.後に, shockのみならず, 種々の重篤な疾患が急性呼吸不全を誘発することが報告され, これをadult respiratory distress syndrome (ARDS) と命名した.しかし, いずれの範疇についても多くの病理所見が報告され, 両者の所見は大部分が重複し, いまだにその基本的なpathogenesisが解明されていない・Hypovolemic shockの患者の肺の組織病理所見を経時的に観察すると, 微小血管の変化がARDSの浸出期の変化に先行し, 浸出期以後まで生存した患者では血管内皮細胞の修復が見られた.さらに, われわれはhypovolemic shockを随伴した35例の患者と随伴しなかった16例の患者の肺の組織を盲検試験により検討し, shock lungまたはARDSに特徴的だと報告されている病理所見のscoreを記録した, 文献検索の結果, 血管外変化として, 肺胞内水腫, 硝子膜形成, 肺胞内出血, 2型上皮細胞の損傷および間質浮腫が挙げられ, 血管内所見として, うっ血, 微小血栓形成および血管内での白血球の停滞, 血管壁病変として, 内皮細胞の腫脹, 内皮細胞の脱落, 血管壁の浮腫および内膜と中膜の肥厚が挙げられる.これらの所見のすべてはhypovolemic shockを伴う患者と伴わない患者に観察された.しかし, これらの所見のscoreを統計学的に解析すると, shockを伴う患者で血管内皮細胞の腫脹 (0.01>P>0.005) と血管内皮細胞の脱落 (0.025>P>0.01) の平均scoreがshockを伴わない患者の平均scoreより有意に高値であった.血管壁の浮腫と間質の浮腫についての平均scoreはshockの患者でより高値を示したが, 統計学的に有意のものではなかった (0.1>P>0.05) .これらの結果より, shock lungまたはARDSに関して報告されている組織病理所見はいずれも特異的なものではないと示唆される.しかし, 微小血管の内皮細胞の損傷は浸出性変化と増殖性変化に先立ってhypovolemic shockの初期に出現する特徴的な所見で, shock lungの基本的な病変と考えられる.
  • 桑原 健太郎, 後藤 英道, 長谷川 貢, 小林 正樹, 井上 紳, 嶽山 陽一, 藤田 良範, 新谷 博一
    1988 年 48 巻 1 号 p. 43-50
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞を異常Q波の有無によりQ-wave myocardial infarction (QMI) とnon Q-wave myocardial infarction (non-QMI) に分け, さらにnon-QMIで発作時にSTの降下を示す例だけでなくSTの上昇を示す例がある事に注目し, 発作時のST偏位の方向によりST上昇群 (non-QMI-E) , ST降下群 (non-QMI-D) に分け, その臨床所見, 予後などを比較検討した.急性心筋梗塞601例中non-QMI-E19例, non-QMI-D28例, QMI554例であった.平均年齢はnon-QMI-E58.4±9.9歳, non-QMI-D65.8±11.0歳, QMI63.8±11.4歳で, non-QMI-Eは他の2群に比して有意に若かった.梗塞前狭心症はnon-QMI-Dが92.9%で他の2群 (non-QMI.E57.9%, QMI43.0%) に比して有意に高率で, その病型ではnon-QMI-Eにはangina at restが45.5%, non-QMI-Dにはchanging patternが53.8%, QMIにはnew angina of effortが31.9%と, 他の2群に比して有意に高率であった.ポンプ失調はnon-QMI2群はQMIに比して低率で, 特にnon-QMI-Eでは重症心不全, ショックは1例も認めなかった.CPK最高値はQMIで2966±17651U; Lとnon-QMI群に比し有意に高値であったが, non-QMI-Eは1065±1028IU/L, non-QMI-Dは854±721IU/Lで2群問には有意な差はなく, NST (ST偏位の認められた誘導数) でもnon-QMI-Eは4.9±2.1, non-QMI-Dは6.2±1.7で2群問に有意な差はなかった.冠動脈狭窄枝数で, 三枝狭窄例はnon-QMI-Dで71.4%と他の2群に比して有意に高率で, non-QMI-Eは27.3%, QMIは29.3%でほぼ同率であった.梗塞後狭心症はnon-QMI (non-QMI-E47.4%, non-QMI-D57.1%) はQMI23.1%に比し有意に高率であった.累積生存率は発作後1カ月でQMIは81.6%, non-QMI-Dは89.9%, non-QMI-Eは100.0%, 1年後QMIは75.9%, non-QMI-Dは73.5%, non-QMI-Eは100.0%, 5年後QMIは68.0%, non-QMI-Dは64.2%, non.QMI-Eは94.7%と, non-QMI-Eは全期間で他の2群に比し有意に良好で, non-QMI-Dは発作後6カ月まではQMIに比し良好であり, 1年後より悪化しQMIより低率であった.死因は急性期ではQMIに心破裂, 慢性期ではnon-QMI-Dに再梗塞が高率であった.以上より急性心筋梗塞を心電図所見よりQMI, non-QMI-D, non-QMI-Eに分けることは臨床所見, 予後を考える上で有益であり, 発症早期の血行再建によって本来QMIになるべき症例をnon-QMI-Eとし得たならば, 予後が改善される可能性が示唆され, non-QMI-Dでも血行再建による再梗塞の防止の重要性が改めて認識された.
  • 陳 聰明, 平野 勉, 稲葉 昌久, 永野 聖司, 高橋 昭三
    1988 年 48 巻 1 号 p. 51-55
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    糖尿病では動脈硬化の発症, 進展が一般人に比して高く, 血栓症の発症頻度も高い.血栓症の発症に関して血小板凝集能の亢進が重視されているが, われわれは血小板凝集惹起に対して血清過酸化脂質 (以下LPO) が促進因子となっていると考え以下の研究を行った.1) インスリン非依存型糖尿病 (NIDDM) 患者46名の血清LPOと血小板凝集能を測定した.2) アラキドン酸 (AA) およびリノール酸 (LA) の過酸化物arachidonic acid hydroperoxide (AAHPO) , linoleic acid hydroperoxide (LAHPO) を健常者の多血小板血漿 (PRP) にin vitroで添加しadenosine diphosphate (ADP) 凝集を測定した.3) ストレプトゾトシン (STZ) 糖尿病ラットにLAHPOを静注しADP凝集を測定した.そして以下の結果を得た.1) 糖尿病患者の血清LPOとADPによる血小板の最大凝集率 (ADPmax%) は弱い正相関を示した (P<0.05) .2) AAHPO, LAHPOは共に健常人血小板のADP凝集を亢進させた.3) 糖尿病ラットにLAHPOを静注した群では, 正常ラットにLAを静注した群, 正常ラットにLAHPOを静注した群, 糖尿病ラットにLAを静注した群に対しそれぞれ有意の血小板凝集能の亢進をみた (おのおのP<0.01, P<0.01, P<0.05) .以上の成績より, 糖尿病患者ではしばしば血清LPOの上昇を伴うが, LPOの上昇は血小板凝集に対し促進的に働き血栓症発症の誘因の一つとなっていると考えられた.
  • ―判別関数による多変量解析―
    長谷川 貢, 山田 斉, 大野 雅文, 桑原 健太郎, 岩崎 俊作, 後藤 英道, 小林 正樹, 新谷 博一
    1988 年 48 巻 1 号 p. 57-67
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    われわれは心筋梗塞の急性期予後と, 心不全重症度分類を, 多変量解析の判別関数を用い, 検討した.症例は143例の急性心筋梗塞で, そのうち血行動態上で予測不能とされる心破裂3例を除外した140例で, 主として検討した.血行動態の測定は, 入院時 (Oh) , 入院後8時間, 16, 24時間の4点で行った.指標は収縮期血圧 (BPS) , 平均血圧 (BPM) , 拡張期血圧 (BPD) , 心拍数 (HR) , 心係数 (CI) , 肺毛細管楔入圧 (PCWP) , 中心静脈圧 (CVP) の7指標を用いた.次にこの7指標の生・死に対する判別の寄与度をみたところ, CI, CVP, PCWP, BPD, BPM, HR, BPSの順であった, またこれらの血行動態指標より下記の2つの判別関数式を得た.
    1) 223-164 (CI) +10 (PCWP) .
    2) -42-27 (BPS) -64 (BPD) +88 (BPM) +3 (HR) -136 (CI) +7 (PCWP) +13 (CVP) .上記の式を用い予後を推定したところ, 1) 式, 2) 式いずれもOhが, 生存・死亡の適中率が高く, internal sample (式を得るために用いた症例-140例) での理論的適中率は1) 式で78.8%, 2) 式で85.6%であった.さらにexternal sample (式を得るために用いた症例以外の例-42例) でも1) 式で76.2%, 2) 式で85.7%の著明な適中率を得, 本式の有用性を示した.最後にForresterらの方式に準じ, CI, PCWPの数値で, 心不全重症度分類を試みたところ, 95%信頼限界で, CI2.361/min/m2, PCWP15.12mmHgの境界値を得た.
    以上, われわれの検討は病態の把握, 治療への応用等, 臨床的に有用性を呈する結果を得た.
  • 山本 晃, 高野 信也, 久住 武, 浅賀 英世
    1988 年 48 巻 1 号 p. 69-76
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    12人の被験者に対して40Hz純音単独負荷, 40Hz純音+バンドノイズ (1KHz, 4KHz) 重複負荷, 40Hz純音+道路騒音重複負荷を行いサーモグラフィーを用い手背皮膚温の経時的変化を測定した.負荷直前を0としたときの皮膚温変化について負荷音別, 被験者別に分散分析法を用い対照群と比較した結果, 負荷音の種類やレベルと有意な変化の出現には一定の傾向が認められなかったが, 被験者別にみると大きな個人差が認められた.以上の結果より低周波音によるとされている不定愁訴の発生は騒音そのものによる影響より受聴者側の心理的, 生理的効果がもたらす自律神経系の状態を反映していると推察される.
  • 大野 雅文, 加地 紀夫, 中谷 研一, 吉田 文英
    1988 年 48 巻 1 号 p. 77-86
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    純右室梗塞と左室後壁梗塞にともなう右室梗塞との血行動態について検討した.雑種成犬を用い, 静脈麻酔後人工呼吸下に開胸し, 心膜を保存した状態で心筋梗塞を作成した.右冠動脈洞房結節枝分岐直下を結紮したRCA群 (6頭) , 左回旋枝の鈍縁枝分岐後左房枝分岐直下を結紮し, 30分後にRCA群と同部位の右冠動脈を結紮したLCX+RCA群 (8頭) , LCX+RCA群と同部位の左回旋枝のみを結紮したLCX群 (5頭) について血行動態変化を経時的に観察した.パラメーターとしては, 心拍数, 平均血圧, 心拍出量, 左室の収縮期圧と拡張末期圧, maxLVdp/dt, 右室の収縮期圧と拡張末期圧, maxRVdp/dt, 平均右房圧, 全末梢血管抵抗, さらに水素ガスクリアランス法を用い心筋血流を測定した.最大変化率はRCA群では平均血圧6.6%, 心拍出量: 8.3%, 左室収縮期圧5.1%, maxRVdp/dt13.4%, 左室前壁の心筋血流8.3%と有意な減少を示した.一方右室拡張末期圧は17.2%, 平均右房圧は43.4%とともに有意な増加を示した.LCX+RCA群では心拍数8.2%, 平均血圧8.7%, 心拍出量32.8%, 左室収縮期圧9.5%, 右室収縮期圧8.7%, maxRVdp/dt15.7%, 左室前壁の心筋血流21.5%と有意な減少を示し, 全末梢血管抵抗33.9%, 左室拡張末期圧30.8%, 右室拡張末期圧56.8%, 平均右房圧71.1%と有意な増加を示した.LCX群では平均血圧11.8%, 全末梢血管抵抗10.6%, 左室収縮期圧9.4%, maxLVdp/dt9.9%と有意な減少を示した.心拍出量は8.5%の減少を示した後一時前値にまで回復, その後ふたたび10%前後まで有意に減少を示した.左室拡張末期圧45.3%, 右室拡張末期圧11.6%, 平均右房圧6.7%と有意な増加を示した.maxRVdp/dtは徐々に増加し, 心筋血流は左室, 右室ともに軽度の減少を示したが有意差はみられなかった.RCA群, LCX群は経過中回復する傾向がみられるのに対し, LCX+RCA群は変化が持続し, かつ大きな変化を示した.RCA群とLCX群のRVEDPが一過性の増加をみた後, 前値にまで回復していることから, 傷害をうけていない右室自由壁, 心室中隔が代償的に働き右室機能の低下を防いだものと考えられた.また, LCX+RCA群で心拍出量の減少が持続してみられたことから, 臨床上みられる右室梗塞の特徴であるlow output syndromeが出現するためには, 右室自由壁と心室中隔がともに傷害をうけることが必要であると考えられた.
  • 斎田 清彦, 高場 利博
    1988 年 48 巻 1 号 p. 87-94
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    体外循環という非生理的条件下において, より一層の末梢循環の改善を期待すべく, nitroprussideを使用し, その血行動態に及ぼす影響を検討した.対象は後天性心疾患30例で体外循環中nitroprusside投与前後を比較した.体血管抵抗は平均31.1より25.6dynes・sec・cm-5まで減少した (P<0.005) .酸素供給量は205~350 (平均254.0) ml/min/m2とほぼ一定であった.酸素消費量は平均50.7から58.8ml/min/m2と有意に上昇し (P<0.05) , 酸素消費率においても平均20.1から24.3%と有意に上昇した (P<0.05) .体外循環中高値を示すことが知られているcatecholamineはnitroprusside投与による有意の変化は認めなかった.Reninに関しても軽度上昇傾向を示したが有意差はなかった.次に疾患手術内容が同程度の20例のnitroprusside非使用例 (C群) と前述の使用例 (NP群) を比較した.単位時間あたりの尿量はC群で平均403ml/hour, NP群で395m1/hourと有意差はなかった.再加温時間はC群で平均48.2分, NP群で38.5分と短縮傾向がみられた (P<0.05) .ICU帰室時の心機能を検討したが, NP群で心係数, 左室分仕事量は若干良好であったが有意差はなかった.開心術中nitroprussideを使用することによって酸素需要・供給バランスが変動し, 末梢組織代謝の改善が推測された.また, catecholamineの抑制および灌流圧低下に対するrenin活性の有意の変動は認めなかった.尿量も比較的保たれ腎不全発生例はなかった.Nitroprussideによる再加温時間の短縮は, 間接的に体外循環からの離脱を容易にしたが, 体外循環中のみのnitroprusside使用では, 術後の心機能の改善に関する直接作用は明確ではなかった.
  • 望月 衛, 今野 述, 梅津 一彦, 片桐 敬
    1988 年 48 巻 1 号 p. 95-103
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞におけるポンプ失調の発症について, 従来より梗塞巣の拡大が強調されているが, さらに非虚血部心筋にも代謝障害が生じ, 心機能低下の原因の一つになっている可能性がある.われわれは, この点について左室内圧の低下と非虚血部心筋の代謝障害, エネルギーレベルなどの関連について検討した.雑種成犬20頭を, ウレタン-αクロラロースージアゼパム静脈麻酔, 調節呼吸下に開胸し, 左冠動脈回旋枝を起始部より約1cmで結紮し, 急性心筋梗塞を作成した.経時的に左室内圧 (LVP) , 肺動脈圧及び心拍出量 (CO) を測定し, 結紮120分後の心摘出前にドリルバイオプシーにより虚血部, 非虚血部心筋を採取し, 心内膜側 (Endo) と心外膜側 (Epi) に2分して, ただちに凍結させ, 除蛋白後, 酵素法でATP, lactate, pyruvateを測定した.さらにEndo, Epi各々39から, Harigaya-Schwartzの変法により心筋小胞体 (SR) を抽出し, Ca++-ATPase活性の測定と同時に, SDS-ゲル電気泳動によりSR蛋白の分画定量を行った.冠結紮120分後, 虚血部心筋において, ATP含有量は, Endo, Epiともに著明な減少を認め, lactate含有量はともに非虚血部心筋の2.2倍に増加した.SRのCa++-ATPase活性はEndoで42%, Epiで49%に有意に減少した.ATPase主蛋白の組成も有意に減少し, 虚血部では小胞体膜の崩壊すなわち壊死性変化を示した.LVPが平均で前値の約70%に有意に低下した群 (D群) とそうでない群 (ND群) を比較すると, 非虚血部心筋においてD群のATP含有量はEndoでND群の74%に減少し, 心筋ATP含有量はEndoでLVPの低下に伴って減少し, 有意な正相関を認めた (r=0.666, P<0.05) .SRのCa++-ATPase活性は, 常にEndoがEpiより有意に低値でありEndoでND群は, 平均7.78μmolesPi/mg protein/hrに対しD群は, 4.61であり, EpiでもND群9.21に対しD群5.60に, ともに有意な減少を認めた (P<0.001) .Endo, Epiともに活性は, LVPの低下に伴って低下し有意な正相関を認めた (r=885, 0.886, p<0.001) .SDS-ゲル電気泳動によるSR蛋白分画に変化はなかった.梗塞巣のサイズ, 冠動脈構築上の差異, カテコールアミンの分泌などの相互作用により左室内圧が低下した場合には, 冠灌流の減少に伴い, 非虚血部心筋のエネルギー代謝も重大な障害を受ける.本研究においても, 非虚血部心筋においてSRのCa++-ATPase活性はEndo, Epiともに, 心筋ATP含有量はEndoで, 左室内圧の低下と有意な相関を認め, 非虚血部心筋でも左室内圧の低下に伴いエネルギー産生障害とともに収縮系の障害が生じていることが示され, 更に冠灌流の減少, 心収縮力の低下という悪循環を形成することによりポンプ失調に進展する可能性が示唆された.
  • 杉山 喜彦, 太田 秀一, 塩川 章, 九島 巳樹, 斉藤 司, 大塚 敏彦, 広本 浄子, 小倉 享子, 鈴木 孝
    1988 年 48 巻 1 号 p. 105-108
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    病理組織学的診断がlymphoplasmacytoid lymphoma (immunocytoma) とされた24症例のリンパ節スタンプ標本におけるATPase染色とANAE染色を行い, 両染色の活性を比較検討した.腫瘍性のlymphocyteおよびplasmacytoid cellは, plasma cellへの分化傾向の強弱にかかわず常に一定の高率なATPase陽性細胞として認められた.つまりANAE-granular positive cellの増加が高率な症例や中等度陽性を示す症例においては, ATPaseの増加と平行関係がみられたが, granular positive cellが弱陽性の症例ではATPase活性のみが高率を示した.以前に報告したB-cell originのCLLやfollicle center cell由来のリンパ腫と同様にimmunocytomaにおいてもATPaseは陽性であり, B-cell originの悪性リンパ腫を検索する場合にはANAE染色と併用することによりかなり有用な酵素細胞化学的染色法であるといえる.
  • 杉山 喜彦, 太田 秀一, 塩川 章, 九島 巳樹, 斉藤 司, 大塚 敏彦, 広本 浄子, 小倉 享子, 鈴木 孝
    1988 年 48 巻 1 号 p. 109-112
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    8例のIBLにつきそのリンパ節スタンプ標本におけるANAEおよびATPase染色を行った.以前にわれわれが報告したB-cell typeのCLL, FCC由来の悪性リンパ腫およびlymphoplasmacytoid lymphomaと同様にT-cellのpopulationの減少がみられた.Plasma cell seriesはANAE染色ではその増加が示唆されたにもかかわらずATPase活性はB-cell typeの悪性リパ腫に比べて若干の減少を示した.この検索結果からみると, IBLに出現するplasma cell seriesは反応性のplasmacytosisにみられる細胞とは異なりneoplasticな性状に近いことがそのATPase活性の減弱から示唆された.IBLがimmunoblastic lymphomaへの移行を示すことが報告されており, 一つの興味ある細胞化学的所見と思われた.
  • 柴田 実, 住野 泰清, 吉田 直哉, 定本 貴明, 岡田 正, 佐藤 源一郎, 上野 幸久, 遠山 正博, 野中 博子, Yoshio H ...
    1988 年 48 巻 1 号 p. 113-117
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    症例は36歳男性, e抗原陽性の慢性活動性肝炎.昭和62年8月, ステロイド離脱療法を試みるも効果なく, 約12ヵ月後に肝機能の増悪をきたしたため, インターフェロン療法に切り換えたところSeroconversionをきたし, 肝機能が正常化した.当院におけるステロイド離脱療法有効例は全例が治療後12か月以内にseroconversionもしくはseronegativeをきたしている.従って, ステロイド離脱療法後12か月を経過してもseronegativeをきたさず, 加えて肝病変の進展が認められた場合にはステロイド無効と判断し, 本例に用いたインターフェロン療法を含め, 次の治療を考えるべきである。
  • 刑部 義美, 村橋 真, 兼坂 茂, 成原 健太郎, 高橋 愛樹
    1988 年 48 巻 1 号 p. 119-121
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    Hugh-Johes (H-J) V度の慢性肺気腫症の72歳男性, 上気道感染を契機に急性増悪に陥り当センター入室となる, 著しい呼吸性アシドーシスと意識障害があり気管内挿管施行し従量式人工呼吸を開始した.経過中, 気縦隔気腫, 皮下気腫を生じ, 一般状態も悪化したため, Servo900cによる従圧式人工呼吸に変換した.変換後気腫の進行も止まり, 一般状態も改善した, 気道閉塞の強い人工呼吸管理に従圧式人工呼吸法も一考と思われた.
  • 中野 幾太, 呉 順美, 秋田 泰, 小沢 進, 米山 啓一郎, 竹内 治男, 小貫 誠, 八田 善夫
    1988 年 48 巻 1 号 p. 123-126
    発行日: 1988/02/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    Cerebrotendinous xanthomatosisはコレステロールから胆汁酸への代謝に障害のある常染色体劣性遺伝の稀な疾患であり, 腱, 中枢神経系, 肺などにコレステロールの沈着を認め, また胆汁中, 糞便中では多量の胆汁アルコールが認められる.その特異な臨床症状に興味がもたれるとともに, コレステロールおよび胆汁酸の代謝を検討する上でも重要な疾患と考えられている.今回, われわれは本症の一例を経験し胆汁酸および胆汁アルコールに関して詳細に検討し得たので報告する.
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