理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 525
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理学療法基礎系
多変量解析による脳卒中片麻痺者の歩行能力の検討
*加茂野 有徳加茂野 絵美奈良 武彦
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抄録

【目的】
臨床において歩行能力を評価する指標として,歩行スピードの計測はもっとも簡便であり,広く用いられている手段である.本研究では,脳卒中片麻痺者の歩行スピードに影響を与える因子として,歩行時間・距離因子に加え,麻痺の重度および床反力波形指標を用いて多変量解析を行った.その結果より,片麻痺者の歩行能力を決定しうる因子について検討することを目的とした.
【方法】
当センターにおいて歩行分析を行った脳卒中患者のデータベースから,発症後3ヵ月以上を経過し,10 m以上の歩行が可能となった片麻痺者212例を対象とした.大型床反力計システム(共和電業)を用いて,その前方2.5 mの地点から歩行を開始し,床反力計通過後1.5 mの地点で停止し,出発点に戻り再度歩行を行った.歩行は自由歩行とし,左右各10歩の歩行計測データをサンプリングした時点で終了とした.補装具および靴については,被験者が普段歩いている条件と同一にした.
解析に用いる因子として,下肢ブルンストローム・リカバリー・ステージ(以下,下肢BRS),静止立位時の麻痺側最大荷重率,歩行スピード,歩調,ストライド長および床反力波形指標16項目(床反力3方向の対称性,再現性,円滑性,動揺性,リズム性,よろめき)を取り上げ,統計ソフトウェアJUSE-StatWorks/V4.0(日本科学技術研修所)を用いて多変量解析を行った.有意水準は危険率5 %未満とした.
【結果】
はじめに,歩行スピードを目的変数として重回帰分析を行ったところ,歩調およびストライド長の2つの説明変数にて,寄与率は0.97であった.そこで,歩調とストライド長をそれぞれ目的変数,下肢BRS,麻痺側最大荷重率,各床反力波形指標を説明変数として重回帰分析を行った.歩調を目的変数としたときは,下肢BRS,鉛直方向再現性,鉛直方向リズム性,進行方向再現性,進行方向円滑性,進行方向動揺性,進行方向リズム性,左右方向円滑性,左右方向リズム性を説明変数として,寄与率は0.782であった.また,ストライド長を目的変数としたときは,鉛直方向再現性,鉛直方向リズム性,進行方向対称性,進行方向再現性,進行方向リズム性,左右方向動揺性,左右方向リズム性,よろめきを説明変数として,寄与率は0.707であった.
【考察】
片麻痺者の歩行スピードすなわち歩行能力を決定する因子として,歩調とストライド長の寄与率が高いことは,健常者および片麻痺者を対象とした先行研究の結果と一致するものである.また,歩調とストライド長をそれぞれ説明する因子において,床反力3方向のリズム性が両者に含まれた.床反力波形が身体重心加速度波形を反映するという点から,床反力波形の基本周波数のスペクトルを表すリズム性は,重心軌跡の周期性を反映すると言える.片麻痺者の歩行能力に,重心の制御能力が関与していると考えられる.

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© 2007 日本理学療法士協会
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