昭和医学会雑誌
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糖尿病患者に併発した広範囲足部壊疽の治療経験
久岡 俊彦鈴木 晟時吉本 緑坂巻 隆男真弓 克彦井上 健飯野 史郎樋口 道生
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1992 年 52 巻 4 号 p. 408-416

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抄録
糖尿病患者に併発した難治性の足部広範囲壊疽を治療し, 完治せしめたので, その経験について報告する.症例はNIDDM (Non-Insulin-Dependent Diabetes Mellitus) 女性2例 (59歳と63歳) とIDDM (Insulin-Dependent Diabetes Mellitus) の男性1例 (40歳) の計3例である.いずれの症例も病悩期間が8~13年と長く, 血糖調節も不良であった.足部壊疽の誘因は火鉢による熱傷, 人為的な腓胝剥離および外傷の放置であり, いずれも細菌感染を来し重症化したものである.既往に糖尿病性多発性末梢神経障害を有し, 足背動脈の拍動は良好であったため, neuropathyに起因するものと考えられた.足部の壊疽は足背から足底へ穿通するもの, 踵より下腿下部へ穿通するもの, 足全体に蜂窩織炎を形成するもので, 起炎菌としては, Staphylococcus aureus, Streptococcus viridans, Bacteroides fragilisなどが検出された.治療前の空腹時血糖値は160~500mg/dlであり, HbA1cは11~13%であった.治療としては, 速効型インスリンを1日4回皮下注射し, 血糖値を70~150mg/dlに維持するとともに, 異化を防ぐために, 肥満の有無にかかわらず, 1600Kcal/dayを下廻らない食事を与えた.感染に対しては, 有効抗生剤の投与を行なうとともに, 局所に対しては, 皮膚科に依頼して徹底した壊死組織の除去および排膿に努めた.その結果, 壊疽は3~4ケ月で完治するに至った.以上の成績から, angiopathyを伴わない糖尿病性壊痕は, 強化インスリン療法, 1600Kcalを下廻らない食事, 抗生剤投与のほか, 局所の徹底的浄化を忍耐強く継続することによって, 保存的に完治せしめることが可能であると結論された.
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