抄録
西ケニアのビクトリア湖畔は,高度のマラリア浸淫地である.蚊帳の使用は,効果的であるが,蚊帳を使用する事によるハマダラカの吸血行動の変容も危惧されるなど,その効果には限界がある.よって,蚊帳だけでなく,それに付加した防蚊対策の可能性を探ることは重要である.住民の生活に密着し,無理なく受け入れやすい予防法として,古くから家畜を利用したマラリア防除法が考えられてきた .家畜を家の周辺に繋留することにより,屋内休息蚊の数の減少につながることが期待される.そこで,ビクトリア湖畔でも,家畜によるマラリア対策が可能かを検証するため,ランダムに抽出した104軒の家を早朝訪問し,スプレーキャッチ法により,屋内休息蚊の採集を行った .同時に,蚊帳の使用と,この地域のすべての家畜の分布を確認した.採集した蚊を顕微鏡下とPCR法により種同定を行った .家畜の存在と蚊帳の使用が,主な媒介蚊である3種のハマダラカ ( Ahopheles arabiensis, Anopheles gambiae sensu strict, Anopheles funestus)の数に影響があるかを検討した.その結果,蚊帳の使用は,3種の屋内休息蚊を減少させる十分な効果があることが分かったが,家畜の存在の付加的効果は期待できず,むしろ,山羊に限っては,屋内休息蚊が増加した .ただし,これは,直接,人吸血蚊の増加に関連するわけではなく,今後,それぞれの種で,媒介蚊の吸血行動への影響を検討する必要がある.