抄録
はじめに
重症心身障害児(者)は、重度の身体的障害や言語障害を併せ持つことから自己の思いを表現することが困難であり、欲求が満たされない場合に特異行動によって不安や不満を表現することが多い。Aさんは、右手の第2〜5指を第2関節まで口腔内に挿入し(以下、手入れ行為)、咽頭の刺激により激しいむせ込みや嘔気が出現し、ときには嘔吐に至ることがある。ペットボトルやフェイスタオルなど(以下、玩具)を提供すると、それらを口元に持っていくことで一時的な行為の消失は見られるが、すぐに玩具を手放し再び同行為がみられる。現状では食事時間帯に多く観察されるが、その要因は明らかではない。そこで、手入れ行為の意味を「不快の表出」「感覚刺激としての遊び」という二つの側面から考え、同行為が減少する方法について検討した。
目的
手入れ行為が減少する方法を明らかにすること。対象Aさん(40歳代)。食事は経口より全介助で摂取、水分は経鼻胃管より注入。
方法
1.食事・注入・口腔ケアの順番について4通りの組み合わせで実施し、手入れ行為の少ない組み合わせを明らかにする。
2.終日、改良した玩具(ゴムを用いて常時把持できる範囲にあるように工夫したもの)を提供する。
結果
最も手入れ行為が少なかった組み合わせは「食事→口腔ケア→注入」であった。また、改良した玩具の提供で、手ではなく玩具による口元への感覚刺激が観察され、これらにより手入れ行為は減少した。
考察
食事前の注入は、胃の膨満による胃内の不快につながるため注入を最後にしたことと、食事直後の口腔ケアで食物残渣による不快を取り除いたことで、手入れ行為が減少したと考える。不快要因を取り除くことで同行為が減少したことから、Aさんにとっての手入れ行為は、不快の表出の一つであると考える。また、改良した玩具の提供は、常に手入れ以外の感覚刺激が得られる状況を創り出し、同行為が減少したと考える。