抄録
はじめに
胃瘻造設を希望しないと保護者が一貫して意思表明している症例について職員間で話し合う機会を得た。重症児にとっての最善の利益を誰がどう判断するのかを施設全体で考える契機となったため報告する。
症例と経過
50歳女性 脳性麻痺 横地分類1 16歳で母と死別後施設入所、8年前当施設に転院。父親の面会は週に1回は欠かさない。数年前より誤嚥性肺炎を繰り返すが、面談のたびに父親から胃瘻造設を固辞する意思表明あり。昨年再度医師から胃瘻造設を提案するが「本人は食べることが最も喜びであり、食べられなくなったときが人生の終わりと思うであろう。自分にとって娘はかけがえのない存在だが、長い間施設で生活をしてきた娘のためを思えばこそ胃瘻は作らないであげたい」と述べた。今後の対応について職員間で意見が分かれたため施設内で討議した。
方法
1.多職種によるグループワークを2回実施
2.外部委員を交えた倫理委員会開催
結果
1.職員の意向・課題の整理職員の知識不足、胃瘻造設の有無で考えられる本症例にとっての利益と不利益、今後の父親への面談のあり方、父親と各職員自身の人生観、父親の発言の解釈、本症例の歴史、治療の決定権と決定へのプロセス、職員の心情、今後の実際の生活をどう支えるかが課題として挙がった。
2.倫理委員会での見解父親の言動は了解可能で、医療側の強引な決断により父親と娘の関係を裂くことが最もあってはならない。今後病状の変化のたびに現状に対する最善策を模索し父親と話し合うことが重要で、最終的に胃瘻造設をしなかった場合も法的に問われることはないであろうとの見解であった。
考察
重症児にとって最善の利益は一律に決定できるものではなく、その方自身の歴史や価値観、関係性によって変化しうるものである。その都度職員と家族で話し合いをもち、人生のステージに応じたその方の最善を目指し共同意思決定を行っていきたい。