2023 年 76 巻 3 号 p. 149-157
消化管は生体の外と内をわけるインターフェースである。多様な消化管細胞のうち, 腸内分泌細胞が, 生体の「外」である管腔内の物質情報を受容し, 消化管ホルモンを「内」分泌し, 食情報を生体に伝達するとされる。タンパク質を例にとると, 基質特異性の異なる多様な酵素により断片化されると膨大な分子種が生成することが知られている。近年, 酵素消化物の一斉分析が可能となり, また, 酵素消化により生成する生理活性分子が多数発見されるとともに, 生理活性に重要な構造上のルールが明らかにされてきた。すなわち, 食に由来する外因性シグナルの分子レベルでの解明が進み生体との相互作用の解像度が顕著に上昇したといえる。本総説では, 外因性ペプチドに着目し, その消化管ホルモンシグナル調節について概説する。加えて, 多様な分子構造と生理活性を併せ持つペプチドが, 新しい食シグナルの情報伝達経路や加齢による変容をあぶり出す優れたプローブとなった例も紹介する。