1963 年 15 巻 5 号 p. 358-361
N. crassa 1 Aに由来するビタミンB1要求性変異株N. crassa9185を用いて天然試料中のビタミンB1定量を試みた。本菌は既報の様にB1完全分子にのみrespondしその構成分子であるOMPやThにはrespondしない。すなわち本菌はPyrimidine部分とThiazole部分とからB1を合成する道程の酵素活性が遺伝的に障碍されていると考えられる。その遺伝的性状は安定で測定操作中に原栄養型に復帰することはない。現在までピタミンB1の定量には主としてLactobacillusfermenti, Streptococcus salivaricvs が使用されておりその他Phycomyces blakesleenusやStaphylococcus aureusも用いられることがある。しかしそれらの培地組成は一般に非常に複雑であるか, B1構成分子の同時存在により測定値が変動するなど従来の化学的な方法にくらべ必ずしも優れているとはいえない。これに反しN. crassa9185を用いる著者の方法は培地組成が簡単で, 特別の器具を要せず, 一定の条件下で培養する限り蛍光定量値に信をおけない程度の微量のB1でも再現性に富む測定値が得られた。更に本菌は生体内におけるB1活性型である, TDPやTMPにもB1と同程度にresponseを示すのでその測定値は従来の蛍光定量法による総B1値と理論的に一致すべきである。ただし本菌のB1付燐体に対する活性はそれらが直接利用されるものか, 一応脱燐酸化した後活性を示すのかは明らかでない。
本法を用いて米および牛肝臓中のB1定量を試みたところ回収率はそれぞれ111, 85%で, かつその測定値は結合型B1含有比率の高い牛肝臓では化学的測定法による総B1値と一致することがたしかめられた。微生物学的定量法を用いることによりThiochrome反応は陰性であるが生物活性のあるB1誘導体の存在やB1の生物活性に影響をおよぼす物質の存在等を見出す可能性がある。したがって本法による測定値が化学的定量法による測定値よりはるかにたかくでたばあい, または回収率が100%をこえたばあいには特に注意を要する。これらの点を考えあわせると本法は一般試料中のB1測定のみならず種々の食品の調理科学的な栄養価変動についての研究にきわめて有用なものと考えている。