栄養と食糧
Online ISSN : 1883-8863
ISSN-L : 0021-5376
食品微生物の無機栄養要求に関する研究 (第1報)
菌体収量, アルコール生産量, 揮発酸, 不揮発酸生産量へのカリウム欠乏の影響について
小牧 久時小沢 篤子
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1966 年 19 巻 1 号 p. 40-45

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抄録

高等植物と異なり, 微生物のカリウム要求には著しい差があり, ある種の微生物はカリウム欠乏培地 (当初, カリウム無添加培地と名付けたが, ガラス容器から溶出してくるカリウムの量を無視することはできないので, 後にカリウム欠乏培地と名付けた) においても良く生育増殖するものがかなり多いことを見出した。すなわち, Zigopichia sp., Candida utilis, Saccharomyces Rouxii, Saccharomyces cerevisiae, Aspergillus niger, 雑菌II (未同定) 等の微生物はカリウム欠乏培地によく成育増殖することが判明した。次にこのうち特にSaccharomyces cerevisiae, Saccharomyces ellipsoideusについては, 乾燥菌体収量, 対糖乾燥菌体収量, アルコール生産量, 対糖アルコール生産量, 総酸生産量, 対糖総酸生産量, 揮発酸生産量, 不揮発酸生産量について各々6~8回にわたり, 正常培地とカリウム欠乏培地についての比較を行なった。その結果, 同菌の対糖菌体収量及び対糖アルコール生産量は, カリウム欠乏状態 (炎光法によって定量せるに8ppm以下) においても大差のないことが判明した。また, Aspergillus nigerにおいては, 乾燥菌体収量, 対糖乾燥菌体収量, 総酸生産量, 対糖総酸生産量, 揮発酸及び不揮発酸とくにクエン酸生産量を定量した。その結果Aspergillus nigerによる対糖クエン酸生産量は, カリウム欠乏培地において, むしろかえってやや上まわることが判明した。我々の使用したカリウム欠乏培地 (カリウム無添加培地) には, カリウム塩を故意には加えていないけれども, ガラス容器から特に殺菌時に相当に多量のカリウムが溶け出るものと思われ, 殺菌完了後のカビ用カリウム欠乏培地, および酵母用カリウム欠乏培地中のカリウムはかなりの量に達しているものと思われる。そこでカリウム量を炎光法で測定してみると前者ににおいては8ppm (すなわち205μM濃度) ないしそれ以下, 後者においては20ppm (すなわち512μM濃度) ないしそれ以下であることが判明した。しかしながらこの程度の低カリウム培地においては, これらの菌がかなりよく生育増殖し, 醗酵生産物が同率またはむしろかえってやや能率よく生産されることはきわめて興味深い知見であると思うので報告した次第である。今後はさらに, 食品工業上重要な微生物の無機栄養要求について検討を行ないたい。

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© 社団法人日本栄養・食糧学会
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